Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

orbital period

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久々にバンプのアルバムが到着した。久々なのだけど飢餓感が薄かったのは、前作ユグドラシルのクオリティーが高く、それ以上を余り期待していなかったからかな。良くも悪くも、バンプは大きな路線変化をしないバンドだから、ユグドラシル聞いてれば「聞きたいバンプ」が大体そこにあった。
今作はシングル6曲、全17曲の大作。たいそう分厚いブックレットには17曲を一つの世界観でまとめるための、藤原さんによる一つの物語、絵本が描かれている。それは、一人の王様の話。自分だけにしか見えない「星の鳥」に手を伸ばす王様の物語。
voyager。前作やLIVING DEAD同様にアコギの澄んだ音色でアルバムは幕を開ける。アコギに混じる微かな通信音。日記のような不思議な歌詞がこの時何を指すのか僕達は知らない。不意にファルセットに持っていく部分が好き。
歌が少しずつ切々とした調子になり、すっと星の鳥へと移行する。夜空を見上げるような美しい小曲は、次のメーデーへのイントロであり、実はメーデーのリフを抜き出したもの。違和感なくメーデーになだれ込む。
メーデーバンプのアッパーな部分をコンパクトに纏め上げた曲。悩むようなメロから、力強く前を向くサビへ。とても良い曲なのだけど、欲を言うとコンパクト過ぎる。オンリーロンリーグローリーやsailing dayに比べて、曲に全部収まりきってしまってる感じ。ただし、間奏ののダイナミックさはとても良い。
引き続きアッパーな曲、才悩人応援歌。アルバムの中ではベストの出来と言えると思う。乗車権とハルジオンを合わせて割ったような曲。普通の人間がふと悩む。普通の人がふと俗な人や世間に嫌気がさす。その瞬間がリアルに切り取られている。応援歌というタイトルだけあって、決してネガティブ一辺倒という曲ではないけど。
キラキラとした曲調が魅力的なプラネタリウムは最も古いシングル曲。四畳半の部屋に自分で作ったプラネタリウムプラネタリウムの中に自分で作った星。その輝きに自分で浮かれて、ふとした瞬間に天井に手が届き、それは作り物と気付いてしまって落ち込む。でも、その自分で作った輝きだけは消えないという、いやにリアルな歌詞が痛みとなってこちらの胸を打つ。曲調としてはギルドに近い。こういう曲調は個人的に大好きだし、方向性は違えどどちらも歌詞がとても良い。
supernovaもシングル曲なのだけど、こちらはゆっくりと熱を帯びていくような穏やかな曲。シングルでも地味だったけどアルバム中でも地味。これについては前に書いたよね。
ハンマーソングと痛みの塔は、星の鳥を目指すために四苦八苦するブックレットの中の王様の話そのもの。少しハネた曲調が新しい。何と言えばいいのだろう。身体がノるようなリズムかな。テンポ良く進む曲に、淡々と王様を描く形。最後の言葉遊びと、ブックレット中の眠りこけてる王様が実に笑いを誘う。
普通のロックバンドのように勢いの良いイントロの割にはいつものミディアムな曲調が続く時空かくれんぼ。歌詞は非常に良いのだけど、サビでボーカルが完全にバンド負けしてる。もしくは、バックの音が大きすぎる。
かさぶたぶたぶの不思議なタイトルはずっと気になってった。かさぶたの視点から、描かれたこの曲は非常に軽快で可愛らしい。コーラスの入れ方や行進曲めいた明るさが、先のB'zのHOMETOWN BOY'S MARCHを思い出させるね。個人的に喧嘩してしまった子供が悩んで謝るのを、少しずつ小さくなりながら優しく見守るかさぶたがどこか滑稽で凄く可愛らしい。最後の「でも、たまには転んでも欲しいな」にくすりと笑わざるを得ない。ギターの重ね方がどこか60〜70年代の英国バンドの遊び心と通ずるものを感じさせる。
花の名はメーデーと同時発売されたシングル。映画タイアップということで、雄大なラブソングになっているのだけど、個人的には今ひとつ。バンプの魅力は雄大さとか壮大さのような大きなものではなく、小さな身近さだと思っている。身近さが、胸の奥にまで入り込んでくるのが好きなんだけど。同じアコースティックなバラードならスノースマイルの方が断然好きだな。
ブックレットでは王様が星の鳥に届くために、王様の冠も宝物も何もかも脱ぎ捨てて、動物達に助力を請うシーン。その後にくるのが、ひとりごと。優しさについて一人でぼそぼそと考え込む歌。自己嫌悪で苦しむサビが印象的。曲調自体はややマンネリ気味だけど、花の名よりはこういう奴の方が好き。
連続的なドラムの響きが実に印象的な飴玉の唄。内省的なメロ部分に対して、曇りが取れたように鮮やかなサビが特徴。サビとメロが乖離してるようにも聞こえるけど。分かり合えた、出会えたのに、死んでゆく君を前にして取り乱している歌詞がなんとも言えず物悲しい。神様には祈らない、という歌詞がまた何ともいえない。タイトルからは想像もつかない静かな慟哭の唄。
ブックレットでも飴玉の唄の後に、王様は星の鳥を夢見ながら静かに息を引き取り、星の鳥 repriseが物静かに流れる。飴玉の唄と物語の両方にシンクロして聖歌のように響き渡る短いインスト。
それを引き裂くのが、バンプ史上、Kと並び燦然と輝く楽曲カルマ。一人生まれるたびに、いやでも一人死ぬ様を、ガラス玉と陽だまりに例えた抽象的で、でも切ない歌詞と、練りこまれたスピーディーな曲調が本当に素晴らしい。歌詞と物語の間を行き来していた、リスナーの気分を最高潮にする楽曲。というか、それまでの曲がまるでカルマに至るまでのお膳立てに聞こえてくる。シングルでは単にロックな曲調がいいなぁ、などと思っていたけど物語性を持つと俄然曲の存在感が増す。テイルズに相当寄った歌詞らしいから、テイルズやった人には元々そうなのかもしれないけど。
ブックレット中では、王様の死後、動物達が何世代もかけて、王様が星の鳥にメッセージを送るために作ろうとした星の鳥のオブジェを完成させる。喜ぶ動物達から離れて、こっそりと王様の墓の前にくるライオン。終わってしまったことへの空虚な実感を、本物なんだよ、と優しく語り掛けるarrowsの歌詞からしか、ライオンの心情は推し量ることは出来ない。
ライオンの一族に伝わる義務として、遥か昔王様が脱ぎ捨てた冠を墓へと返すライオン。墓の裏から出てくるのは、バンプの歌詞カードにはお馴染みのネコ君。
CDからはポップなシングル、涙のふるさとが流れ出す。シングルではいわゆるシングルといった風情の「目的地はよく知って場所さ 分からないのかい? 冗談だろう」「会いに来たよ 会いに来たよ 消えちゃう前に来たんだよ」という歌詞が、世代を経て星の鳥を作るという目的を忘れた動物達と重なってくるから不思議だ。
ネコ君は、いつか消えてしまった星の鳥を見つけるけどライオンには見えない。voyagerと同じ曲調にバンドの演奏を加えたflybyが流れてくる。ここでやっと、星の鳥は王様達の星をflybyする宇宙船なのだと築く。音しか紡げなかった星の鳥は、声を覚え、メロディーに乗せて歌を歌う。でも、やっぱり応答は無くてflybyする。最後に少し悲しさを漂わせて、ブックレットを閉じると、そこにはバンプのマークが。星の鳥と、星と、墓にかかった王冠、獅子を組み合わせたマークを見てびっくりするのだ。


バラバラの曲を星の鳥という物語でよくまとめ、起伏のアルバムに仕上げたと思う。17曲という長さの割に、ダレることなく聴ける。まぁ、それは小曲が多いからでもあるけど。その分、前作までにあった、曲では収まらないような痛みみたいなものが減ってしまったかなという印象。アルバムとしては上出来、されどもう一つあれば完璧だった思う。個人的に真っ赤な空を見ただろうかを入れても良かったのではと思う。あれはシングル級の曲と出来だと思う。え?ボーナストラック?ビリーヴ オレ オマエ ビリーヴ♪