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たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

MAGIC

MAGIC(初回限定盤)(DVD付)

MAGIC(初回限定盤)(DVD付)

MONSTER、ACTIONはバラエティ豊かなアルバムだった。前者は往年のB'zらしさを感じさせる派手なアルバムに仕上がったし、後者はB'zらしさをどの範囲まで広げられるのか挑戦したある種実験的なアルバムに仕上がった。二枚に共通する楽曲の多彩さはB'zの大きな強みだと思う。しかし、一方でこうも思った。久しぶりに一本の芯が通ったアルバムも聞いてみたいと。考えてみると、BrotherhoodからTHE CIRCLEまでのアルバムは明確なアルバムカラーがあったのだ。
前置きが長くなったけれど、MAGICは久々に一つの色でまとまったB'zのアルバムだ。MONSTER、ACTIONからの復活したブラス隊、ストリングス、やや厚めのコーラスはそのままに、昭和の匂いのする歌謡曲テイストを盛り込んだ懐かしくも新しいアルバムである。
アルバムの一曲目はIntroduction。曲名通り、アルバムの導入となるインストナンバーで、アルバムタイトル曲であるMAGICのメロディーをギターのみで何重にも重ねた重厚なイントロである。こういう歌詞の存在しない導入曲が入るのはELEVEN 以来だし、完全に楽器だけの導入曲というのは初めてである。
間髪入れずに入るのはシングルのDIVE。当然ながら、シングル収録時にあった冒頭のメロウなパートはカットされている。個人的にはない方が曲の印象が一貫してて好きのだけど、DIVEの爆発力を効果的に表現するためには、 Introductionやシングルの冒頭パートのようなスローなパートが必要なのかもしれない。
Time FliesもDIVEから間をおかずに登場。ギターのフィードバック音から始まり、マイケル・ジャクソンのBeat Itを彷彿とさせるリフが登場。「They told him don't you ever come around here〜♪」とは続かずに、B'zがもっとも得意とする王道的なロックナンバーに流れ込む。過去の楽曲では、儚いダイヤモンドの疾走感が一番似てるかもしれない。「光陰矢のごとし」ということわざから取ったタイトル通り、だらだらしてる間に「あっという間に」過ぎ行く時間がテーマ。ACTIONの楽曲のような理想感がなく、現実的な愚痴っぽい部分が多いだけに身近で誠に耳が痛い。歌詞の系統としては銀の翼で翔べが一番近い。ギターソロから、Cメロ、ラストのサビへの流れが圧巻である。またこうしたロックナンバーであるにも関わらず、サビのパートで、歌メロとはまるで違うコーラスが入ってるのも大きな特徴である。R&B系の楽曲でサビは何重にもコーラスが重ねられてて、歌い手自身はフェイクしまくるやり方がよくあるけど、それに近い。物凄い勢いで駆け抜けていく横で、歌メロから外れたボーカルが「眠れない」と嘆く様が実に立体的。
続くのは先行シングルであるMY LONELY TOWN。鮮烈なPVに、実験的な構成についてはシングル発売時にも書いたけど、未だにこの曲の鮮やかさは失われていない。しかし、感嘆すべきは、こうしたシングル曲に挟まれながらも、まったく負けていないTime Fliesやlong time no seeの楽曲の方かもしれない。
さて、そのlong time no seeは現在放映中サラリーマン金太郎2の主題歌にもなっている昭和のGSの匂いがするアップテンポなナンバー。はやる気持ちを象徴するように曲がグイグイ聞き手を引っ張っていく。Bメロで「でもね」や「うっかり」と入るタイミングとスピード感が個人的にはツボで、ここを聞いてるとわけもなくテンションがあがってしまう。ちなみにアルバム中「Hi!」の掛け声が入るのはこの曲だけ。
2009年のB'zを引っ張り続けたヒット曲イチブトゼンブ。ゲシュタルト崩壊を簡単に起こせそうな字面のタイトルではあるが、いまやB'zを代表する楽曲である。シンセを使用した印象的なイントロ、弾けた演奏の割には優しいメロディーという要素が色々絡み合ってのヒットだろう。一番の驚きはこの曲がカラオケでも結構歌われてたということである。流石です、月9。
映画TAJOMARU主題歌、PRAY。アルバムによっては中核を担うようなシリアスな楽曲だが、今作においてはB'zらしいオリエンタルテイストを前に出したバラードナンバーの一つという位置づけである。ピアノから導かれて、ストリングスと枯れたギターが絡みあう始まり方、どこか無常さを感じる歌詞の情景描写はRaging Riverを聞いてるかのような錯覚を覚える。見方を変えると、誰かに対する祈りをテーマにおいているせいか、曲における「自分」の存在が極端に希薄な珍しい楽曲でもある。良くも悪くも美しく纏め上げられた楽曲。それ故に最後のボーカルとギターだけで曲を織り成していくパートに存在感を感じる。
タイトル曲にして異質。新しい。MAGICは歌謡曲の要素もないし、ブラスもなければ、ストリングスもなく、曲自体もスマートさよりは無骨さを感じる。トリッキーなリフとシンセが絡み合って大きなメロディーを作ってるファンキーな楽曲。ネテモサメテモやDo meのような派手にとっちらかす曲を思い浮かべてもらえば、その印象で間違いない。自分から起こす魔法をテーマとして持ってはいるが、シリアスさよりも遊び心を存分に感じる歌詞である。「あんときのままマジック ママのようなその声は〜♪」なんかは早口言葉にでも挑戦しているようにさえ思える。割合にハードな楽曲のはずなのに、ポップさを感じるのはこの歌詞と、時折聞こえてくるシンセが不思議なおかしみを与えているせいだろう。またしても個人的なツボなのが、ラストサビの寸前で上から降ってくるような「Don't stop me now!」のコーラス。このコーラスと直前の「未だ見ぬ僕らの最高峰」の歌詞の組み合わせに、おかしさの裏に潜んだ確かな力を感じられる・・・というとそれっぽく聞こえる。それと、サビで一行毎にジャーンと鳴らすギターもいいね。ギターを揺らす松本さんの姿が見えてくる。「受話器の向こうでまた君を笑わせてみたい」という歌詞も印象的。単純なことながら核心を突いてるな、と。
Mayday!もパーティーソングの類と言っていいだろう。ブラスとコーラスがここまで前面に出た騒がしい楽曲はもう何年も B'zでは聞いていない。HOLY NIGHTにくちづけをを思い出す軽やかなAメロ、徐々にメロディから外れてく追っかけコーラスを配したBメロ、野太いコーラスがライブでの楽しさを今から感じさせるサビ、と曲を聴く面白さが満載の楽曲。歌詞の方は割りとピンチな状況なのだけれど、「もう12時?!」「お願いだから!」といった情けない本音のコーラスが聞こえてくるため、危機感よりも笑いが先に出てくる。是非ともライブで騒ぎたい楽曲である。スピード感を失わせないギターソロや最後の「Oh, NO!」のとぼけた感じは何度聞いても楽しい。しかし、MAGICの後にMayday!だと、ノリはよいが、歌詞を連続で見ると、結局MAGICを起こせなかったのか、と突っ込みたくなる。
B'zの曲は色んな状況で歌詞や曲が製作されるが、曲と歌詞の両方が具体的なエピソードを持って生まれるパターンというのは今までなかったように思う。人の命を海の水の一滴に喩えたバラード、TINY DROPSがその珍しいパターンの一つである。B'zにはShowerという、やはり海に還る命をテーマにしたバラードが存在するが、Showerが儚さに対する嘆きを感じさせるのに対し、TINY DROPSはいずれ消え行く命に対して達観しているような節がある。アルバムの中では明らかに浮いているのだが、その浮いてるのを無視してでも聞いてもらいたい完成度ということだろうか。確かに海に水が零れ落ちるような情景を想像させる穏やかなギターソロは必聴。
ベースが導線となって火花を散らすハードな歌謡曲、それが、だれにも言えねぇ。歌詞の内容はI'm in love?と変わらないのに、見せ方が違えばこんなにも印象が違う。long time no seeと共にアルバムに鮮烈なカラーを残す楽曲である。ストレートな印象のlong time no seeに比べて、こちらは曲調が二転三転する複雑な作り。この曲を聴くと雷という単語が頭をちらつく。感情の迸りという意味でもそうだし、歌詞の最後の方でも雷という言葉が出てくるし、二番のAメロで歌詞の区切りのたびに入るギターが雷の閃光のように聞こえてくる。試聴段階では、Aメロのあまりの昭和っぽさと、二番が始まる前のギターの凝りように感心していたのだけど、この曲は実は二番が終わり、Cメロからが本番。思いもかけぬ展開に度肝を抜かれること必至。
夢の中で逢いましょう。これまた、コテコテの昭和のムード歌謡。哀愁を帯びたメロに、ブラスが加わり派手に展開するサビ。これで、歌詞が少し文語的な表現だったら、まるでサザンオールスターズだ。夢に消えたジュリアとか、これによく似た雰囲気だと思う。「死ぬまで好きな人なんだろうな きっと」なんていう歌詞もどこか桑田さんっぽさがある言い回しだと思う。その歌謡曲っぽさをぶち壊すのが最後の英語コーラス。「I wanna feel! I wanna hear! I wanna touch! I wanna fill!」突然、昭和歌謡からThe 7th Bluesの曲でも聞かされたかのような気分になる。かっこいいし、ばっちり演奏にも合ってるのだけど、ここは歌謡曲を貫いたほうがおもしろかった気がする。
掛け声一発「We're on the Freedom Train!」そこからB'z以外にありえないギターソロが登場。いかにも80年代のHM/HRを感じる、あるいはそういうのを感じさせた頃のB'zを思い出させるロックナンバー、Freedom Train。こういうハードな楽曲にブラスが寄り添う構成は本当に懐かしい。ピエロやBUDDYといった楽曲も懐かしさを感じさせた楽曲だけど、この曲はそれ以上。寂しげなメロからブレイクして、野太いコーラスの絡むサビ…おいおい、これはどこのYOUTH GONE WILDだと突っ込みたくなるかっこよさ。さらに間奏では稲葉さんが久々に語る。自由についてあーだこーだと演説してるのだけど、B'zの語りの常として、聞き取りづらくなってる。じゃあ、「SET ME FREE!」のコーラスがなけりゃあいいのかと言ったらそうでもない。この「SET ME FREE!」があるから、語りが映えるし、逆もまたしかり。「不満なら降りればいい スピードが鈍るからね」という突き放した歌詞も珍しい。間違いなくライブでCD以上の力を発揮する楽曲で、ぜひドームでコーラスを叫びたい。
長々と書いたけど、要はとても充実したアルバムなのでぜひ聞いてみてほしいということ。どちらかというと好みの分かれるアルバムの多かった近年だけど、これは誰が聞いてもそれなりの満足が得られるんじゃなかろうか。強いて難を言うのなら核となる曲が不在なことかもしれないが、その分一枚を一気に通して聴ける。
さて、これでLIVE-GYMに心置きなく挑める。来週の京セラドーム、楽しみです。