Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

(an imitation)blood orange

[(an imitation) blood orange](初回限定盤)(DVD付)

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買ったのがだいぶ前になります。昨年はベストアルバムに、今作に、非常に精力的だったイメージがあります。SENSEは往年のミスチルサウンドを意識したようなメリハリのあるアルバムに仕上がっていましたが、今作は、非常に穏やかなアルバムになりました。ミスチルといえば、アルバムで割と棘のある曲を何曲か入れてくるのですが、今作はサウンド的には全編通して丸くなっています。あのHOMEであさえ、フェイクという曲があったのですが、今回はびっくりするほど柔らかいアルバムになりました。

アルバムの一曲目を飾るのは、hypnosis。ストリングスとバンドが絡む、ミスチルとしては珍しい仰々しさがうかがえるロックバラード。たとえるならEverything(It's You)のような。張り裂けそうなボーカルが見果てぬ夢に手を伸ばす歌詞の主人公の叫び声に聞こえてきます。

続く二曲目はyouthful daysを思い出させるような軽快なMarshmallow day。非常に軽やかな楽曲で、ほとんど地声に近いキーで抑え目なAメロからサビに向けてため込むBメロ、爽やかに風を切っていくサビと、まるでyouthful daysなのですが、youthful daysが全体的にやんちゃな雰囲気を醸し出していたのに対して、こちらはストリングスやブラスのアレンジ含めて非常にお洒落で大人の雰囲気が漂う。

シングルに収録されたご機嫌なEnd of the Dayを挟んで、常套句。君が好き同様にシンプルな言葉と演奏で、愛を告げるバラード。非常に耳触りのよい曲なのだけど、タイトルの常套句という言葉にひっかかりを覚える。常套句でしか伝えられないもどかしさという意味なのか、はたまた常套句を歌い続けることに対する皮肉なのか気になるところ。

再びシングル曲のpieceがきて、イミテーションの木、かぞえうたと続く。かぞえうたは全編がひらがなで綴られた童謡のような楽曲。受けるイメージはあんまり常套句と変わらない分、少々退屈に聞こえてしまう瞬間があります。

ちょいとブルージーさを感じるイントロから気だるい雰囲気で歌が紡がれるマイタウン。Aメロがどことなく終末のコンフィデンスソングのサビと被ってしまう。非常に印象的なだけになおさら。キラキラさこそないが、町の風景をありのまま描写するあたりは東京っぽいでしょうか。東京という街を肯定的に捉えたあの曲に比べると、もう少し冷めた目で町を観察してますね。

過去と未来と交信する男。タイトルからして非常にサイケデリックな印象がしますし、エフェクトをかけられた桜井さんの声に淡々としたビートに、Monsterのような激しい叫び声を上げるようなサビを期待していたのですが、意外にもサビは澄ましたメロディアスなものでした。間奏含めて、非常にサイケデリックな雰囲気が出てるのにこのサビは惜しい。最後のサビの非常にありきたりなメッセージも少々残念。サビとそれ以外を分割したほうが雰囲気があったのではないでしょうか。最後の「運命を少し呪う男」というフレーズなどは非常にかっこいいのですが。

爽やかな朝を演出する美しいストリングスのアレンジが秀逸なHappy Song。個人的にはイントロのお洒落感をそのまま継続してほしかった楽曲。べらんめぇ調で歌う桜井さんは好きなのだが、このアレンジには今一つあってないような印象を受けてしまう。

最後はシングルの表題曲となっていた祈り〜涙の軌道で締めるこのアルバム。最初に書いたように非常に丸い穏やかなアルバムだ。タイトルは直訳すれば、偽物の血の赤。全編を通して穏やかなこのアルバムにこのタイトルは何を意味するのでしょうか。その答えは同じくイミテーションの名を冠したイミテーションの木にあるのかもしれません。

イミテーションの木の下を少年が飛び跳ねている
それを見た誰かの顔が綻ぶ
情熱も夢も持たない張りぼての命だとしても
こんな風に誰かをそっと癒せるなら

ポップな曲調に、偽物だとしても、それが誰かを癒せるのなら意味はあるという歌詞をのせた楽曲です。何となくですが、アルバムに限らずヒットソングを生み出すポップなミスチル自身のことを歌っているような気がするのです。それは偽物とまではいかなくても、ミスチルの全てではないのだけど、そうしたミスチルの楽曲を喜ぶ人がいるのなら、そこにも価値があると言い聞かせてるような気がしてならないのです。アルバムの楽曲の大半は彼らにとっては偽物の血の赤色なのかもしれません。でも、それは決して悪い意味ではなくて、聞き手のことを100%に考えて作り出した血の色なのではないでしょうか。