Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

Singing Bird

1.ジミーの朝
ペースメーカーを入れているサーファーの知り合い、ジミーのことを歌詞にした曲。残響音の強いボーカルとアコギから、深く静かな海が連想されます。一読すると、臆病な男のイメージがあるけれど、力強いボーカルから感じるのは、むしろ生きることへの強烈な意志です。TINY DROPSもそうですが、サーフ関連のエピソードが元となった歌詞は、命に直結する歌詞が多いですね。サウンド自体は決して明るいものではないですが、決して暗く沈みこむようなものでもありません。最後にフルートと絡み合うように聞こえるファルセットが印象的です。
2.oh my love
打って変わって、ピアノとアコギが涼やかに響くoh my loveは、CMでいち早く耳にすることの出来た曲でした。サビ部分のみを聞くと、CMの映像に沿った親が子供に写真を残しておく気持ちを歌い上げてるような曲に聞こえますが、全体を通してみると、片思いの歌詞にもとれます(CMの映像を元に書き下ろした歌詞なので、一応は親子の歌という捉え方でいいみたいです)。ピアノのリズムが心地よいポップな仕上がりの曲です。Salvationなどでも片鱗は見せていたのですが、このアルバムはoh my loveに代表されるように、ピアノとストリングスを使ったポップな楽曲が増えてます。ピアノの生きいきとした演奏が晴れやかな曲調に色を添えます。目立たないですが、ピアノソロからの短いギターソロやサビへの絡み方が絶妙だと思います。最後は「飛び立っていけ」のフレーズと共に、陽気な曲調へ。子供の旅立ちを晴れやかに祝福してるように聞こえますね。一筋縄ではいかない稲葉さんらしい展開です。
3.Cross Creek
比較的Hadouに近しいものを感じるパンキッシュなナンバー。誰かの結婚式を眺めながら、「君」を奪い取ってよいものかどうか悩むという、最近の稲葉さんには珍しいけど、初期にはよく見かけたタイプの歌詞です。歌詞の若々しさを強調するためか、非常にストレートな曲調で、アルバムの中でも際立ってわかりやすいロックになってます。間奏に入ったところで、「I need somebody to love, you need somebody to love」というフレーズをリフに被せるようにして歌うところが小気味よい。Cross Creekというのは、フロリダにある村の名前でもあり、とある小説の題名でもあるようですが、歌詞との関連性は不明です。
4.Golden Road
銀杏の降る金色の道と自分が進みたいと思う黄金の道を重ね合わせた楽曲。Cross Creekとは好対照なスローテンポのロックナンバーです。頑張れでもなく、頑張らなくてもいいでもなく、頑張らせてみてもいいんじゃないかという一風変わった応援歌。語り聞かせるようなサビの前半部分と、「ムリをしたっていいんじゃない(Oh yeah!)」という掛け声が入り混じるやや軽いノリの後半部分の対照が映えます。ただ、歌詞の原点は後半の「ムリをしたっていいんじゃない」の方で、普通は無理をしないでくださいと気遣うようなファンレターが多いのに対して、無理をしてもいいのだというファンレターに感動して書き上げた歌詞だとか。大賀さんのギターソロも王道的で素晴らしい。
5.泣きながら
配信シングルの第二弾でした。ピアノとストリングス、フルートのみのしめやかなバラードです。親子喧嘩をしてしまった後の気まずさと、仲直りしたいという気持ちをシンプルに歌い上げたもの。Aメロでの、そっと歌を置いていくような歌い方が新しいです。風船と同じ系統のバラードです。ロックな楽曲の緩衝材となってますが、ちょっと地味な曲かもしれません。
6.Stay Free
これもHadouからの継続的なものを感じるロックナンバーです。風を突き抜けるような力強いボーカルによる「自由って〜」というフレーズが頭に残る一曲です。あんまりピンとくるメロディではないですが、Bメロのクラップ音や、どの曲よりも力強い稲葉さんのボーカルから、ライブ感を重視した曲であることが分かります。バイクを駆るPVからの連想ではありますが、あなたを呼ぶ声は風にさらわれてに近いものを感じます。
7.Bicycle Girl
毎朝見かける自転車の君についての思いをつづった一曲。似たようなシチュエーションには、静かな雨がありますが、もう少しストーカー染みた感じのする歌詞です。力強いリフと印象的なベースが冴えるメロ部分(やや根暗な感じがしないでもないですが)と、妙に爽やかなサビのギャップが激しい一曲です。青春時代の気持ち悪いまでの衝動も、いつかは切なさ、ほろ苦さとして思い出に昇華するという歌詞を受けて、最後に爽やかなコーラスワークが登場します、コーラスをなぞるように弾くラファエルのギターは少しB'zチックなものを感じます。
8.孤独のススメ
これまたベースラインの強いイントロで始まりますが、この曲はベース、編曲共に徳永さんです。アルバムの中でも、歌詞、曲共に印象的なロックナンバーです。自己肯定的な歌詞が大半を占めている中で、唯一、自己、他者に対して批判的な目を向ける、ピリリとした歌詞が効いています。二番冒頭の語り口調の「悪いのはアイツだ とりあえずアイツを懲らしめろ」や最後のサビ前の「自分の名前さえ分かんなくなっちゃうかもよ」という言葉が個人的には印象的。間奏ではドラムがロールし、進行曲のような雄々しいコーラスが登場。今回は間奏とか歌の隙間を工夫している曲が多いですね。Hadouはシンプルにギターソロパターンが多かったのですが。
9.友よ
ここから3曲は、稲葉さんのソロにはあんまりなかったタイプの楽曲です。良い意味で、いかにもシンガーソングライター的なミドルテンポのナンバーが続きます。まずは、友よ。長渕さんとか福山さんにも同名の曲がありますが、題材もタイトルも割とありがちな内容です。苦しいときに何気なく助けてくれた友への想いをストレートに綴っています。今度飲みに行こうとかではなく、「言葉があるなら歌おう」となるのが稲葉節。最後のサビのアカペラが気持ちよく響きますね。テンポや歌詞の内容からBUMP OF CHICKENのベルを何となく思い出しました。
10.photograph
oh my loveと並んで、今作の中でも非常に綺麗な仕上がりとなっているナンバー。未来に向けた愛情を歌ったoh my loveとは対照的に、いなくなってしまった大事な人への愛情を滔々と歌い上げています。一番、二番共に非常に具体的な描写があって、セピア色の映像がそのまま頭に浮かんできそうです。意外にもシンプルなバンド形式ですが、大賀さんの物憂げなギターが全編を通して、曲の悲しさと少し前を向きだした明るさを盛り上げてます。
11.ルート53
福山雅治さんと対談をしていましたが、まさに福山さんが書きそうな望郷の念が強く出た一曲です、ルート53とは、岡山県から伸びる国道53号線のこと。一番では子供時代の秘密基地のことを歌い、二番ではおじいちゃんが骨折したというエピソードを歌いあげて、聞き手の何気ない笑みを誘います。国道53号線は外に出ていく道の象徴として描かれていますが、そこから出ていった人たちが無邪気さを思い出す「居場所」がこの曲の主題です。HOMETOWN BOY'S MARCHやさよならなんかは言わせないも似たようなモチーフですが、その二曲が故郷で待つ主人公だったのに対して、この曲は同じく故郷を出た主人公というのが大きな違いでしょうか。主人公の思い浮かべる時代も少年期と幼いのも。メロディや歌詞含めて、一番お気に入りの曲です。友よでもそうですが、山木さんのドラムが非常にいい仕事してますね!こういうポップさが売りの曲では、山木さんのドラムが気持ちよく響きます。間奏の稲葉さんのブルースハープが青空の風景を思い起こさせますが、そこで思い浮かべた景色が皆さんの「居場所」かもしれませんね。
12.念書
アルバムをラストを飾るのがこの曲。配信された当初は、アルバムはこの路線なのかと思っていたのですが、ふたを開けてみれば、稲葉ソロが持つ負のエネルギーが全てこの一曲に凝縮されていたようでした。マイナスも掛け合わせればプラスと言わんばかりに、自己への嘲笑と厳しさが念書というタイトルにふさわしい、非常に強いエネルギーを生んでいます。
以上、12曲でした。稲葉さんのソロアルバムの中でも突出して、明るい楽曲がそろったアルバムかと思います。歌詞の方向性としては、Peace Of Mindの目線が自己から他者へ移ったように感じます。バンド形式に拘らないサウンドは志庵が一番近いでしょうか。志庵が少し内にこもりがちなサウンドだったのに対して、このアルバムはまさに小鳥の鳴き声が聞こえてきそうなオープンな雰囲気を持っていますが。アルバムを通して、稲葉さんの歌が素晴らしいのも特徴。いつも素晴らしいのですが、今回は特に稲葉さんの歌の上手さを感じた一枚でした。生で聴きに行ける方々が羨ましい限りです。