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たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

LED ZEPPELIN 2014年リマスター版

LED ZEPPELINのリマスターが登場するというと、またかという声の方が多く聞こえてきそうだ。解散した偉大なバンドの宿命ではあるのだが、現役時代はシングルのリリースさえもほとんど許さなかったLED ZEPPELINも解散後は、はてなと首を傾げたくなるようなリリースもそれなりにある。シングルよりもアルバム重視のスタイルを貫いたLED ZEPPELINの曲を寄せ集めてベストとして売ったものには、いかに良い音源であってもいくつかの例外を除いてほとんど手が伸びなかった。もちろん、オリジナルの楽曲は既に全て購入済みというのも大きな理由の一つである。
そういう意味では、昨年発売されたライブアルバムはLED ZEPPELINに対する情熱を再燃させるような素晴らしいものだった。ジミー・ペイジがそんなファン心を汲んだのかどうかは分からないけれども、ベストではなく、オリジナルアルバムのリマスタリングという形で音源が提供されることになった。リマスタリングというのも難しいもので、昔の荒っぽい仕上がりも、古きよき雰囲気を盛り上げる要因の一つとして認識するため、妙に楽器の音がくっきりしすぎてても、耳にはなじまないのだ。LED ZEPPELINのリマスター版というと、個人的に知っているのは、以下の3つのリマスター版だ。
1.LED ZEPPELIN Remasters
2.1994年デジタルリマスター版
3.MOTHERSHIP
1は音量も小さめのベストアルバム。二枚組の選曲としては申し分ないが、リマスタリング自体がまだ今ほど一般的ではなかったために、オリジナルを聞いていると疑問符のつくような部分が個人的にはある。2は現役時代のアルバムのリマスタリングで、ジミー・ペイジ監修ということもあり、持ち合わせている人は多いのではないかと思う。僕も1994年版を買い漁った口である。3は2007年発売の最新のベストアルバム。1と選曲やコンセプトは似通ってるが、さすがに新しいだけあって、1、2とは大分に異なる。LED ZEPPELIN=爆音というイメージを持ってる人にはぴったりのリマスタリングで、聞いた感じが派手である。オリジナルアルバムでやられるとどうかなという内容であるが、ベスト版としては理想的な形に仕上がっているように思う。なお、EARLY DAYS、LATTER DAYSという前期と後期に分けたベストアルバムもあるのだが、こちらは未聴である。EARLY DAYS、LATTER DAYSが特別素晴らしいということを聞いたこともないので、恐らくは上のいずれかと似たようなリマスタリング担っているのではないかと思う。
ちなみに、僕個人、あまりリマスタリングを目当てで買うことはない。The Beatlesについては、爆発的な宣伝につられて、ボックスセットを購入している。このリマスターはかなり上品に仕上げられている。中期以降は音にこだわりぬいたThe Beatlesだけに、リマスタリングによって彼らの作りこみがきちんと耳に届くようになったという意味では良いリマスタリングだったと思う。一方で、初期のアルバムは上品に過ぎて、デビューしたての衝動的な部分を失っているのが実に惜しい。
Queenについては、2001年のリマスター盤を買い揃えた。2011年にも微妙なレアトラックスを収めたリマスター版が発売されている。当然、2011年の方が音は良い。ただし、このバンド、どういうわけかリマスタリングによる感動がほとんどない。初期の音源は抜けを良くしようにも、音数がやたら多く、それらが一体となって耳に被さるのが楽しい。The Beatlesのようなたくさんの音の後ろに遊びを隠すというわけではなく、油絵のように分厚く積み重ねた結果、滲み出るインパクトこそがすべてなのである。Bohemian Rhapsodyのオペラパートの抜けが良くなれば、迫力は増すだろうが、Queen2が妙にクリアな音になっても拍子抜けというものである。一方で後期はというと、環境が良くなったこともあり、随分と音が良い。リマスタリングで新鮮な驚きがあるような類の音源でないのは確かだ。そんなわけで、2001年版は少ないお小遣いを使って毎月買い揃えた記憶があるが、2011年版は生憎と不揃いである。
前置きが長くなったけれど、今回のLED ZEPPELINリマスタリングは初期の三枚のリマスタリングに、初出しの音源を加えたものになっている。オリジナルアルバムに寄り添う音源という意味で、コンパニオンディスクという名称を与えられている。
まずは3枚を通しで聞き、その後持ち合わせている音源との比較を行ってみた。音質を追求した機器を持ち合わせてはいないので、あくまでも一般家庭で聞いた限りの比較にはなるのだが、1994年版とはそこまで大きな違いはなかったというのが正直な印象ではある。シンバルなどの高音がややはっきり聞こえるようになったが、ドラムやギターの荒々しい部分はやや丸みを帯びている。基本的なリマスタリングの方針はThe Beatlesと同じようで、オリジナルの雰囲気を損なわない程度に上品に、楽器の音を聞き取りやすくするような調整となっている。
一方でMOTHERSHIPと聞き比べると、やや迫力が足りなく聞こえるかもしれない。MOTHERSHIPでLED ZEPPELINに興味をもった人が聞くと、思ったよりもLED ZEPPELINサウンドは細やかなんだなと思われるかもしれないが、それはそれで成功だろう。
1994年のリマスター版を持っている人には、そこまで目新しい驚きはないように感じる。アナログの雰囲気を再現した紙ジャケットが上品でコレクションするのに足るような出来である程度である。伊藤正則氏、渋谷陽一氏が解説を寄せているが、情報規制のためか、コンパニオンディスクへの言及がほとんどないのが物足りないところだ。

1stアルバムということで、もっとも荒削りな内容である。同時に一番力強いアルバムでもあり、LED ZEPPELINの爆音イメージはこのアルバムのインパクトに負うところが大きいのではないかと思う。この1作目は非常にわかりやすい。ブルースを下地としたラウドなロックである。バンドのパワフルさが前面に出ており、あんまり小難しいアレンジは行っていない(そもそも36時間の製作時間の中ではそんな暇はなかっただろう)。ブルースから程遠く、ノイジーなCommunication Breakdownが異彩を放つ一方で、後の方向性を示唆するDazed and Confusedがあったりと短い時間を目一杯ロックしている。
そんな1枚目にふさわしいコンパニオンディスクとして、1969年のライブ音源が収録されている。わずか8曲のみではあるが、素晴らしい出来のライブアルバムだ。LED ZEPPELINのライブ演奏というのは、とかく長い。その長さが魅力でもあるのだが、時々退屈な瞬間があるのも確かだ。ここに収められたのは非常にコンパクトかつ既発のライブアルバムよりもはるかに若々しい内容なので、オリジナルアルバムを聞いてから、特別の抵抗なく、このライブ音源を聞くことが出来る。また、2ndアルバム発売前ながら、Heartbreaker、Moby Dickの演奏を収めている。そのまま2ndを聞くにのももってこいの内容である。後年、やたら長くなりがちだったMoby Dickもここでは少し大人しめで、多少構成が平坦な気もするが、この長さならボンゾのドラミングに舌を巻いている内に聞き終えるだろう。2ndアルバムは僕がLED ZEPPELINの中では一番好きなアルバムである、ツアー中に作られたこのアルバムはもう少し時間をかける余地があったというような発言をメンバーから聞くこともあるが、個人的にはこのアルバムのぶっとさが大好きである。1stでもかなり鋭い面を垣間見せていたが、このアルバムでは何もかもが鋭く、それでいて重みを帯びている。
Whole Lotta Loveの素晴らしいリフ、中間部の何とも言えぬ緊張感から炸裂する余りにも有名なギターソロは説明するまでもない。この中間部については、リマスタリングの仕方次第で大分イメージが変わってくる。今回については、立体感を意識した作りになっており、ヘッドホンで聞けば四方からLED ZEPPELINが音を鳴らしているような錯覚に陥ることだろう。気だるげなムードから力強いサビへの移行が魅力的なWhat Is And What Should Never Be。この曲はベースラインが魅力的なのだが、今回のリマスタリングで一層ベースがひきたったように聞こえる。Whole Lotta Loveと同じく、初期〜中期のLED ZEPPELINのライブを支えたHeartbreakerは個人的にはLED ZEPPELINのベストソングの一つだ。LED ZEPPELINの持つブルースを基盤としたラウドなロックのイメージを象徴する楽曲であるかと思う。Heartbreakerからの間が絶妙なLiving Loving Maid (She's Just A Woman)はそのキャッチーな出来にもかかわらず、ライブで演奏されたことはないという。勿体ない話である。
今作のコンパニオンディスクは、1枚目に比べると見劣りする。基本的には未完成品やバックトラックのみである。曲の成立過程を楽しめるのは確かだが、ほとんど完成している曲で一部だけ空白というのもなんとなく味気ないものである。狙うところは、The BeatlesのAnthologyなのかもしれないが、あちらがまさに曲のできるまでを楽しめるのに対して、これはマニアックな楽しみの域を出ないのが残念なところである。その中で、唯一完全な未発表音源としておさめられているのがLa Laである。キーボードの華やかな演奏から、アコギのみの爽やかな演奏、バンドによる演奏が入り乱れるこの曲は2ndのその他の曲とはまるで異なる晴れやかな楽曲になっている。正直に言えば、この時期のLED ZEPPELINらしくなく、もう少し時代が下った後のLED ZEPPELINの楽曲を彷彿とさせる。いつも通り練りこんだギターソロが炸裂しており、完全な曲とならなかったのを惜しく思う。ただのハードロックバンドから大転換を果たした3rd。これ以上冒頭にふさわしい曲はないだろうという、Immigrant Songはいつも通りのシャープなLED ZEPPELINである。2曲目のFriendsはアコギとストリングスが入り混じるアレンジが不可思議な印象を与えてくれる。とにかくスピーディーなCelebration Day、印象的なイントロのみがBlack Dogの前に配されることの多かったOut On The Tiles、そしてブルースをとことん追求したSince I've Been Loving You。Babe I'm Gonna Leave Youで目指した路線ではあるが、この曲はそれ以上にバンドの音が身にずっしりと染みてくる。
Gallows Pole以降はアコギがメインとなってくるのだが、からりとしたアコギがメインの楽曲が増えたことで、リリース当時は随分と物議を醸したようである。もっとも、今はどうだろうか。これらの曲を聞いて、LED ZEPPELINに軟弱なイメージを持つ人は少ないのではないか。How The West Was Wonにて、いくつかの曲のライブ音源を聞くことができるが、ほかの曲に引けをとってはいない。
3rdのコンパニオンディスクは、2ndよりはずっと面白い。時間があった分、アウトテイクも多いのだろう。Immigrant Songはエフェクトやコーラスが異なるミックスを収録している。原曲よりもシンプルではあるが、残響の少ないこのアレンジはいささか迫力に欠ける。Since I've Been Loving Youは最初のレコーディング音源である。曲の構想自体はかっちり固まっているのだが、まだまだ曲を乗りこなしておらず、序盤のペイジのギターは軽いし、プラントのボーカルもコブシがきいていない。途中から、演奏に力が入ってきて、ライブさながらの迫力になっていくのは聞いていて面白い。Bathroom Soundは新曲かと思いきや、Out On The Tilesの別録りのインストである。この曲は意外とボーカル抜きの方が魅力があるかもしれない。Jennings Farm BluesもBron-Y-Aur Stompのインストバージョンになるのだろうが、アコギではなくエレキメインのハードなバージョンでまるで別の曲のような出来となっている。Key To The Highway/Trouble In Mindはアコギとハーモニカ、ボーカルのみのブルースカバーである。シンプルな内容であるが、プラントのボーカルにはなぜかトレモロのようなエフェクトがかけらている。ストーンズ風のチープさが中々に良い味を出しており、そういえばこんな具合の曲はLED ZEPPELINではあまりお見かけしなかったなと今更のように感じた。
以上、まずは3枚である。オリジナルのリマスタリングはともかく、コンパニオンディスクは、アウトテイクが少なかったのか残っていない2ndを除けば十分に楽しめる内容であると思う。4th以降の準備もあるとのことだが、ここからはさらに色々なクオリティの高い音源が収録されてくるのではないかと思うと楽しみになってくる次第である。