Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

SUMMER SONIC 2014 Robert Plant with Sensational Space Shifters

サマソニロバート・プラント参戦のニュースが飛び込んできた。調べてみるとプラントの来日はソロでは1984年以来30年ぶりで、それ以外にはペイジ・プラントで1996年に来日して以来という。日違いで、Queenアダム・ランバートも参戦ということで、大変迷ったが、Queenは単独来日に賭けて、プラントを見に行くことにした。先だってのリマスター版の発売で、LED ZEPPELIN熱が自分の中で高まったというのもある。

もちろん、LED ZEPPELIN(以下、ZEP)としてではなく、Sensational Space Shiftersというソロバンドでの来日である。恥ずかしながら、Sensational Space Shiftersについては知識がまるでなかったので、iTunesでライブ盤を予習してみて、その時の気分次第でサマソニ参加を決めようと思った。

Sensational Space Shiftersのライブというのは、プラントの趣味が全開になったもので、もうロックを超えた何か別のものになっている。ZEP曲もやるのだが、非常に民族音楽的なアレンジが施されていて、歌詞と一部のメロディ以外は原曲を留めていないものが多い。ZEPと比較するのはあれなのだが、今のプラントにとって非常に自然な形で声も良く出ているし、楽曲にもZEPとはまた違ったキレがあったので、これならば安心とサマソニ参加を決意した次第である。その判断は間違っていなかった。曲順があやふやになっているのだが、簡単に感想を残したいと思う。

前日の大雨とは打って変わって、快晴のOCEAN STAGEで、Superflyの非常にキレの良い楽曲と伸びやかななボーカルににんまりしながら、プラントの出番を待つ(タマシイレボリューションを始めとしてSuperflyのステージも凄く楽しかった!)。17時半を少し過ぎて、バンドが登場。アコギからぽろりぽろりと綺麗なメロディが流れ出し、気が付けばBabe, I'm Gonna Leave Youのイントロになり、歓声が上がる。プラントがゆっくりとステージに登場。「Babe…」のあの物憂げな声だけでこちらはKO状態。若干短くなってはいたものの、ほぼ原曲通りのアレンジに一気にボルテージが上がる。「Babe!!」の叫び声で、マイクスタンドを蹴り上げ(マイクスタンドを跳ね上げやすいようになのか、スタンド部分をプラントは逆手で持つ)、くるりと回ってみせるシーンだけで、もう眼福ものだった。

「アリガトウ!!」と叫ぶと、すぐに次の曲へ。Tin Pan Valleyはプラントのソロ曲で、原曲は打ち込み色の強い楽曲だったのだが、Sensational Space Shiftersでは割とよく取り上げられる曲の一つだ。原曲の打ち込みの緊迫感をそのままピアノで表現した非常によく出来たアレンジで、YouTubeなんかでもこの曲のライブ版は聞けるのでぜひ聞いてみてほしい。何かが起こりそうなメロがしばらく続いたかと思いきや、一気に激しく畳みかけるサビのギャップが最高にクールな曲で、「Like This!!」のプラントのシャウトが本当にかっこいい。この曲を始めとして、Sensational Space ShiftersのライブはYouTubeで公式がアップしているので、気になったら是非ともチェックしてほしい。特にこの曲は、ちょっとした映像演出が非常に曲に合っている。

「皆さん、こんにちわ(Hello)!英語ではGood Eveningといったところだけど。Sensational Space Shiftersです。僕らには過去も未来もありません。『今』だけです!」こちらを意識したのか、非常にはきはきとした分かりやすいMCを喋るプラント。過去も未来もなく今だけというのは、この日彼が良く使ってた言い回しで、その後のMCでもちょくちょく出てきた。「未来はないと言ったんだけど、今度新しいアルバムが出ます。君達の『今』のために書いた美しい曲が入ったアルバムで、ミシシッピがテーマです」と9月発売のアルバムを簡単に宣伝。新曲をということで、Turn It Upが登場。音源化はされていないけど、途中でBlack Dogのような「アーアー」のコーラスが入るこの曲は、比較的キャッチーな楽曲に仕上がっており、アルバムの発売が待たれる。

「今日はるばる南アフリカからやってきた友人を紹介します!是非歓迎してやってください!Juldeh Camara!」の声で、rittiという弦が一本のアフリカの民族楽器を手にした黒人メンバー、Juldeh Camaraが登場。にこやかな彼の登場でこのバンドの民族的な要素が一気に爆発。口火を切ったのはBlack Dog。Ⅳの一曲目を飾った、バンドとアカペラが交互に登場する印象的な楽曲だったが、メロディ含めてほとんど別の曲にアレンジされたこの曲を最初から認識できた人は少ないのではないかと思う(かく言う自分も、ライブアルバムを聴いていなければ分からなかっただろう)。途中の掛け合いだけが原曲通りで、手を振りながら声を返すと、プラントが時折ニヤリと笑ってみせてくれたのが印象的だった。

Rainbowは9月に発売するアルバムのリード曲とも言える曲。他国では既に演奏されているナンバーということである。前日にふと思いついて、iTunes Storeを覗いてみると、予想通り、先行での配信がされていたので、これ幸いとばかりにDL購入して予習済みである。イントロの地響きのようなドラムが印象的な曲なのだが、これも民族楽器の音だったようで、タンバリンに似た(ただし鈴はついてない)楽器をメンバー全員が持ち、リズムを刻む。当然、観客も手拍子でこれに応じる。東京ではこの曲にあわせたかのように虹が出たと言うが、大阪では夕暮れ前の少しオレンジがかった青い空にプラントの綺麗なファルセットが響いた。

元々がアコースティックなGoing To Californiaは、プラントお気に入りのZEPナンバーで今回に限らず、彼のソロツアーでは度々演奏されている。アコギとマンドリン、ボーカルのみのシンプルな編成で歌われるこの曲はほとんど原曲どおりの演奏で、聞き手を1970年代へタイムスリップさせた。昔のような高音域こそ出ないものの、こういう中低音が活きる楽曲では、プラントはびっくりするほど変わらない若々しい声を出す(むしろこの声を保つために高音域の多用を避けたというべきか)。

Fixin' To Dieも先のライブ盤で予習済みの楽曲である。プラントのソロではFunny In My Mind (I Believe I'm Fixin' To Die)というタイトルだったが、いつの間にかタイトルはシンプルな形に改題されている。この曲の前には少し長めのMCが入り、プラントが遠い目をして、40年前、50年前の思い出について、少々早口気味に語った。ヤードバーズストーンズ、ジミヘン・・・そういった人たちについて歌った曲なんだと締めて演奏されたFixin' To Dieは、音源で聞いたよりも少し物憂げな雰囲気だったように思える(元々民族的かつハードなアレンジだったのが、Sensational Space Shiftersではメロディもメロウな調子にアレンジされている)。

今回のセットリストの中でももっとも意外な楽曲は、What Is and What Should Never Beだった。Ⅱの二曲目であるこの曲は、静と動が入り混じった非常にパワフルな楽曲である。ZEPのキャリアでも、ごく最初の頃(1972年くらいまで)にしか、ライブで演奏されなかった曲なのだ。そんな曲だから、アカペラで「And if I say to you tomorrow」と少し気だるげな声が聞こえただけで大歓声である。さすがにサビのキーは下げて歌っていたが、ほとんど原曲と変わらぬアレンジに大興奮。終盤では、ギターのJustin Adamsが大暴れして、観客を大いに沸かせた。

9月のアルバムに収録されているLittle Maggieは一番民族色の強い楽曲だった。ドラム以外のバンドメンバーが名前も知らないような民族楽器を手にして演奏を繰り広げる。他の曲では、プラントは曲間は合掌して、時折上品に手拍子をしていることが多いのだが、この曲ではバンドメンバーと一緒に体を左右にゆらゆらと揺らしていたのが印象的だった。あとで、YouTubeで確認したところ、他公演でも体を揺らしていたので、これがこの曲の演出なのだろう。

ライブ盤でのWhole Lotta LoveはBlack Dog同様に歌詞以外は別物というアレンジかつ他曲とのメドレーだったので、バンドがまさにそのアレンジで演奏を始めたときは、やはりなという気持ちだった。多くの観客はBlack Dog同様に、にわかには何の曲か分からなかったのではないだろうか。それだけに「Baby, you need love. Baby, you need love」の声でワンコーラスをさらりと歌い終えた後に、原曲のあの馴染み深いリフが響いたときの興奮は半端ではなかった。正直な話、プラントが歌うWhole Lotta Loveを聞ける日が来るなんて想像したこともなかった。サビの「Wanna Whole Lotta Love」フレーズの一回目は自分で歌い、マイクを向けて残りを観客に歌わせるプラントにDVDで見た40年も前の彼の姿が一瞬重なった。ブレイク部分からは、再び民族調のアレンジが登場。それまでのハードさとはまた違ったノリの良さで観客を魅了する。「Love」の声を目一杯引きのばすと、再び原曲のリフが登場して、この日最高の歓声が轟いた。顔を赤く染めながら、シャウトするプラントは本当に獅子のようなかっこよさだった。

「Thank you, Osaka! We'll see you soon! Thank you!!」という意味深な言葉を残してプラントが退場。実に1時間半弱の濃密なステージだった。一昨年発売されたZEPの再結成ライブを収めたCelebration Dayを聞いても思ったのだが、ここ最近のプラントはすこぶる調子が良い。高音域はもちろん昔のようには出ないけれども、それ抜きでも迫力のある歌唱を聞かせるようになってきている。強弱を自在につけられる民族風のアプローチは、今のプラントにぴったりなのかもしれない。願わくば、もう一度見たい。心の底からそう思えるステージだった。