Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

The Beatles 1+

「こんなビートルズ、見たことない!」という売り文句で、15年前に発売されたThe Beatlesの「1」が再発売された。「1」自体はもちろん廃盤でもなんでもなく、これまでも販売されてきたが、今回は「1+」と銘打って、今までまとまった形で販売されることのなかったミュージックビデオを同梱している。

ここで、CD等の音源はこれまで通りの音源をリマスタリングといわれると、購買意欲をそがれるのだが、ここがThe Beatlesの商売上手なところ。音源についてもジョージ・マーティンの息子、ジャイルズ・マーティンがマスター・テープからやり直す形で、新たにリミックスを施しているといわれると俄然、購買意欲が沸き立つというものだ。

元々The Beatlesのベスト盤といえば、長らく(あるいは未だに)ジョージ・ハリスン選曲による赤盤と青盤の2枚組2セットが定番であった。選曲にケチをつければきりがないが、The Beatlesの代表的な楽曲を一望できる理想的なベストアルバムである。ただし、2つあわせてCD4枚という中々の大作である。初心者がいきなり手を出すには中々勇気のいる価格帯とボリュームだろう。

そんな消費者の事情を汲み取って発売されたのが、2000年の「1」である。誰もが聞いたことのあるシングル曲ばかりを、手に取りやすい1枚のアルバムに収めるというのが目的である。CDの収録時間には当然限界があるので、全シングルというわけにはいかないので、英米のいずれかで1位を取った曲としている。

英国でのチャートはNMEチャートによっているため、Please Please Meのようにメロディーメーカーのみで1位を獲得している作品は収録が見送られている(「1」発売以前は同曲が初めての1位というような文句が見受けられた気もするのだが)。しかしながら、この分かりやすいベストアルバムは世界中で空前のヒットとなり、以前にもましてThe Beatlesを耳にする機会を増やしたように思う。

オリジナル音源のリマスタリングについては2009年のボックスセットで完結している。リマスタリングと言えば、音圧を上げて派手に聞かせるという風潮を打ち切って、本来の音源を聞かせるべきという形を提示した画期的なボックスセットだった。

今回の「1」は、リマスタリングは2009年以上のものはないという前提で、やや遊んだリミックスとなっている。初期の音源はどうしてもボーカルが右から聞こえるという今の音楽では考えられないような曲が多いが、これらを真ん中に引き戻されたことで、より現代的な響きになっている。初めてThe Beatlesを聞くという人にも違和感がない仕上がりになっている。

オリジナルを聞きこんでいる人には、少しばかり喧しく聞こえる仕上がりだろうか。Paperback Writerの最初のコーラスの華やかなミキシングにはハッとさせられるが、Eight Days A Weekの最後のドラムの音には眉をひそめてしまう人もいるだろう(細かくなってしまうが、音の処理が甘い部分が多々見受けられる)。

試しに同じ曲順で2009年の音源を並べてみると、なんともまとまりに欠ける半端なアルバムが出来上がった。「1」ではベストアルバムとして華やかにまとまっていることを考えると、多少のことには目をつぶるべきなのかもしれない。

前述のPaperback WriterやWe Can Work It Outといった曲については、原曲が持つポップで華やかな雰囲気が強調され、今回の目玉ともなっている。Penny Laneはボーカルやフルートが前面に出てきて、楽しげに街を歩く風景が目に浮かんでくる。惜しむらくは初期のLove Me DoやShe Loves Youといった曲はモノラルでの収録のままとなっている。せっかくなので、これらの曲を解体してステレオ化するといった試みもしてほしかった。

そして、今回の目玉となるのはなんといてもミュージック・ビデオである。Anthologyプロジェクトの際にも膨大な映像が放出されたが、今回はそれらの映像自体をリストアし、鮮明な映像として蘇らせている。もちろん全ての曲にミュージック・ビデオがあるわけもないので、ほとんどの曲は、TV出演、ライブ映像、写真撮影、オフショットなどを組み合わせて、今回の「1」のために作り上げたビデオとなる。

Anthologyまで見ているようなファンには既出の映像も多々見受けられるが、そうでなければ、音源だけでは想像もできないような愉快なThe Beatlesの姿を見ることができる。「1」収録分のいかにもビデオらしいビデオも良いが、個人的にはボーナスとなる「1+」の楽曲、映像たちの方が面白かった(こちらのCD音源も是非ともほしかった!)。

Hey Bulldogのレコーディング風景なんてついこないだ撮影されたようにも見えるくらい鮮明だ。続くHey Judeもふざけた調子の演奏の後に、ポールが生で歌うボーナスディスクのバージョンの方が魅力的である。Anthologyでも見ることができたが、とびっきりヘビーなロックソングとなったRevolutionを聞くことができるのも嬉しい。この曲の弾けっぷりは見ているだけで楽しい。

何よりも嬉しいのはFree As A Birdの感動的なビデオが収められていることだ。95年にThe Beatlesが電子的に再結成した新曲ということで、話題になった楽曲である。楽曲としては少し地味なきらいがあるが、The Beatlesの様々な楽曲を鳥のように高い位置から見届けるというコンセプトで作成された、このビデオは色々な小ネタを見つけるだけでも楽しいし、The Beatlesを知れば知るほど感動的な仕上がりになっている。

同じく当時、新曲の第二弾となったReal Loveは映像よりも、まずその音に驚かされる。イントロからして、Anthology2で聞けたものとはまるで違うものになっている。全体的にギターの音が良く聞こえるようになったリミックスで、ノスタルジー重視のオリジナル音源よりも、メッセージがはっきりと伝わるリミックスになっている(こういうのを聞くとやはりボーナス分のCDが欲しくなる)。ジョン以外の三人がレコーディングを行う映像をメインに、過去の映像を交えたビデオはFree As A Birdとはまた違った意味でぐっとくるものがある。

ビデオのほかには、ポールとリンゴのコメンタリーを何曲か収録している。ポールはオーディオコメンタリーということで、曲に合わせてぼそぼそと思い出話を語っている。Anthologyでのハキハキしたコメントに比べるとやや物足りないだろうか。一方のリンゴは、動画を前にして本人が登場して愉快なコメントを残している。さすがはリンゴといったところである。

1CD+2BD/2DVDについては、分厚い冊子が付属する。Anthologyからすっかり恒例となったしつこすぎるくらいに細かい解説を添えた冊子が個人的には嬉しい。申し訳程度に毎回同じような解説を添えていたLED ZEPPELINとはこの辺が大きな違いである(ジミー・ペイジがしつこくコメントした冊子でもつければよかったのに)。

単価も高いのでミュージック・ビデオとなると中々、手が伸びにくい商品になってしまうが、個人的にはやっぱり買ってよかったと思えるThe BeatlesのCDだった。もっとも、The Beatlesについてはこれでほぼほぼ放出できるものは放出した感がある。残りはやはりお蔵入りになっているLet It Beの映画だろうか。これは難しいかな・・・。