Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

Bohemian Rhapsody

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

プロモーション力の勝利と言うべきか、はたまたフレディ・マーキュリーというキャラクターのキャッチーさのおかげか、映画Bohemian Rhapsodyの公開をきっかけに今一度世界中にQueen旋風が巻き起こっている。

日本ではI Was Born To Love Youのドラマ主題歌起用をきっかけに2004年にJEWELSという企画盤がおおいに売れたので、それ以来14年ぶりにQueenが表舞台に立った。アメリカに目を向けると、Bohemian Rhapsodyが1992年以来26年ぶりにシングルチャートに登場したほか、サントラが全米3位まで上り詰めている。Queenのアルバムが全米TOP10入りを記録するのは、1980年のThe Gameで1位を獲得して以来、38年ぶりの快挙となる。

映画の内容はフレディ・マーキュリーというボーカリストQueenを結成し、様々な挫折を経て、LIVE AIDという大舞台で復活するまでの物語を描いている。非常にシンプルなストーリーだが、要所要所で耳馴染みのあるQueenのキャッチーな楽曲が映画を盛り上げるので観ていて楽しい映画には違いない。ただし、内容については注意が必要で、あくまでもフレディ・マーキュリーQueenというバンドをモチーフにしたフィクションであるという認識が必要である。フレディ・マーキュリーQueenにまつわる有名な事実をうまい具合にコラージュしているため、この映画が事実であるかのように錯覚してしまうが、様々な印象的なエピソードや時系列は映画を盛り上げるために意図的に歪められている。

細々としたことを書き連ねるのは野暮なのだが、要点を絞って史実との違いを挙げておこう。

1.Queen結成/メアリーとの出会い
Smileをティム・スタッフェルが抜けた晩に、フレディはバンドとメアリーに出会っているが。ここは映画的な脚色がされている。実際にはフレディはSmileへの加入を長いこと希望していて知り合いだったし、メアリーはブライアンからの紹介で知り合っている。この辺は映画らしい改変と笑ってよいレベルだろう。
この映画のサントラではDoing All RightをSmileの三人がレコーディングしなおしていることからも分かる通り、映画の中のようなひどい別れ方をティムとしたわけではないはずだ。なお、のちに出会うジム・ハットンのエピソードについても映画らしい脚色がなされている。

2.曲の発表時期
劇中では様々なQueenの曲が流れるが、劇中のエピソードの時期と楽曲発表時期は必ずしも一致しない。例えば初めての全米ツアーのBGMにFat Bottomed Girlsが流れるが、Sheer Heart Attack(1974年)のツアーで、Jazz(1978年)のシングルが流れているのはファンからすると違和感がある。
最もひどいのはWe Will Rock Youで、劇中では1980年に髭を生やしたフレディがレコーディングしているが、この曲は1977年に発表されている。公式のMV等を見ればわかるが、この時期のフレディは髪はやや短くなったものの、髭は生やしていない。マニアックなことを言うとWe Will Rock Youは元々は通常のバンドスタイルで作成された曲であり、このバージョンは70年代後半のライブのOPとして度々用いられた(Live Killers、Queen Rock Montrealといったライブ盤でも確認できる)。アレンジの過程で有名な足踏み+手拍子になったものであり、ブライアンが頭からこのアレンジを考えていたような描写は些か過剰な脚色である。

3.LIVE AIDに向けて
映画はいくつもの障害や挫折を乗り越えたフレディがLIVE AIDで見事な歌唱を披露するところでクライマックスを迎える。メアリーとの和解、バンド解散の危機、自身のエイズ発覚と喉の不調を乗り越えての見事な歌唱、一体となって興奮する観客の絵は非常にドラマチックであり感動的なシーンである。役者もQueenになりきり、見事なライブパフォーマンスを披露している。
ただし、史実はもう少しドライな内容である。まずバンドはフレディのソロ契約をきっかけに一度解散し、年単位で別れていたような描写だが、これは事実ではない。もちろんフレディのソロ契約は事実であり、そこに不和の原因はあったかもしれないが、メンバーはそれ以前にQueenというバンドに疲れ切っていたと言われている。加えてファンク路線に振り切りすぎたHot Spaceの大失敗がバンド内の雰囲気を悪くしていた。1983年に一年ほどの休みをとったバンドは、1984年にはThe Worksをリリースしてツアーに出ている。バンドの雰囲気は悪く、解散まで考えていたのがLIVE AIDで持ち直したのは事実だが、LIVE AIDが最初のステージ復帰であるような描写は明らかに誤りである。加えて、フレディがソロアルバムを出したのはThe Worksリリース後の1985年である。休止中にソロアルバムをリリースしていたのはブライアンである。
劇中では印税で揉めていたバンドが、ブライアンの提案で以降の作詞作曲名義を統一することになる。印税について揉めていたのはブライアンとロジャーである。ヒット曲の多かったフレディのシングルのB面を誰が勉めるか等々で揉めていたという。名義の統一はThe Miracle(1989年)からで、フレディの提案だったとされている。
フレディのエイズ発覚も1985年ごろと描写されているが、実際には1987年ごろとされており、LIVE AIDの時期のフレディはその事実は知らなかったはずである。1987年の発覚と前後して、Queenはツアー活動を停止している。

他にも細々とした点はあるが、大きく気になるのは以上だろうか。
もっとも、史実と異なるからと言って、この映画を否定するものではない。フレディ・マーキュリー、ポール・プレンターといった亡くなった人にバンドの負を被せた感はあるが、それを差し引いても最後のLIVE AIDは非常に盛り上がるものだった(映画館はぜひ音響の良いところを選んでほしい)。

ただ、映画で見た通りのことをそのまま事実として受け取られるとファンとしては面白くないという複雑な感情である(フレディは自分勝手なクズだったとか言われるとムッとするわけだ)。実際の人物をモチーフにしつつ音楽面でも大成功した映画と言うとTHE GREATEST SHOWMANが思い浮かぶが、同じ系統の映画なのである。フレディは少しばかり現代に近い人間であるため、史実と混同しやすいが。

先に書いたように映画に先駆けてサウンドトラックが発売されている。実質はQueenのベストに近いが、映画のためのなかなか興味深いトラックもいくつか存在する。
サウンドトラックを大きく分別すると以下の3つになる。

1.新規の録音・音源
2.ライブ音源
3.既存音源のリマスタリング

順を追ってみていこう。

1.新規の録音・音源
 1. 20th Century Fox Fanfare
 3. Doing All Right
 11. We Will Rock You(Movie Mix)
 21. Don't Stop Me Now

1曲目のFOXのテーマをブライアンとロジャーが演奏するというのは中々粋な仕掛けである。小曲ではあるが、仰々しい部分も含めてQueenらしさがある。

Doing All Rightは元々Smileの楽曲をファーストアルバムでQueenの曲としてアレンジしたものである。これを再度3人で集まって録り直したというのだから吃驚である。色々と加工してはあるのだろうが、ティムの声は驚くほど若々しい。Queenではないのだが、アルバムの中では最も興味深い音源と言って差し支えないだろう。

We Will Rock Youはスタジオ音源からライブ音源に移行するバージョン。

Don't Stop Me Nowはどういう風の吹き回しかギターのみブライアンが録り直しを行っている。Don't Stop Me Nowは元々、ギターソロまではギターのバッキングがない楽曲である。そこにブライアンのバッキングが加わったのだが、どこかもっさりした感じになっている。人によってはゴージャスになったように聞こえるのかもしれないが、個人的には軽やかさが消えたように感じる。ただし、最後のフレディのボーカルが長めに聞けるのはありがたい。

2.ライブ音源
 4. Keep Yourself Alive(Live in 1974)
 6. Fat Bottomed Girls(Live in 1979)
 8. Now I'm Here(Live in 1975)
 10. Love of My Life(Live in 1985)
 16. Bohemian Rhapsody (Live Aid! - Live in 1985)
 17. Radio Ga Ga (Live Aid! - Live in 1985)
 19. Hammer to Fall(Live Aid! - Live in 1985)
 20. We Are the Champions(Live Aid! - Live in 1985)

Queenの中でも記念碑的なライブからいくつか音源を拾っている。LIVE AIDまでなので、ウェンブリー公演は収録されていない。パリのFat Bottomed Girls、リオのLove Of My Lifeが初出の音源となる。Fat Bottomed GirlsはOn Fire以来のライブ音源化。同時期のBicycle Raceではなく、敢えてこちらを選んだ理由は不明だが、四人のコーラスが堪能できるロックナンバーという意味では良い選曲だろう。Love Of My LifeはRock in Rioからの選曲。映画ではメアリーに向けて作曲している最中にポール・プレンターにキスされ、フレディが自身の性癖に目覚めたり、TVで流れている最中にメアリーとの別れ話に発展したりと散々な扱いの曲である。

残る音源はLIVE AIDからの選曲。Live Aid!自体は映像化されているが、音源をCDに収めるのは初めてである。せっかくなら2枚組なりにして、全編惜しまずに収録したほうが良かったように思う。とは言え、演奏のみではLIVE AIDのパフォーマンスの魅力は伝わりにくいだろう。バンドの状態はもちろん良いのだが、あれだけの観客が当時の最新曲Radio Ga Gaで一斉に拳を振り上げている様は圧巻であり、感動的でもある。ステージからその様子を見たバンドがQueenというバンドへのやる気を再び見せたのも納得の光景である。

3.既存音源のリマスタリング
 2. Somebody to Love
 5. Killer Queen
 7. Bohemian Rhapsody
 9. Crazy Little Thing Called Love
 12. Another One Bites the Dust
 13. I Want to Break Free
 14. Under Pressure(Feat. David Bowie)
 15. Who Wants to Live Forever
 22. The Show Must Go On

これらは全てリマスタリング音源である。Queenリマスタリングは2011年に全アルバム、Foreverの発売にあわせてバラード楽曲のみリマスタリングされている。今回も少しだけだが、音質は向上しているように感じる。ベストと呼ぶには少し物足りないが、いずれもGreatest Hitsに収録されている楽曲であり、飽きさせることはないだろう(毎度のことではあるが、Who Wants To Live Foreverの選曲理由がもう一つ見えてこない。歌詞とフレディの死が妙にマッチングしているからだとは思うが曲としてはやや過大評価である)。

代表曲の多いバンドであるがゆえに、1枚のベストアルバムではどうしても過不足が出る。興味を持ったなら、やはりグレイテスト・ヒッツ1&2を押さえておくのが一番かと思う。Queenの魅力はオリジナルアルバムにあるので、出来るならオリジナルアルバムに手を伸ばしていただき、Queenの豪華絢爛な世界に足を踏み入れてもらえたらと思う次第である。