Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

Highway X

2019年5月の「NEW LOVE」以来、3年3か月ぶりとなるオリジナルアルバム「Highway X」がようやくリリースとなりました。
「FRIENDSⅢ」を昨年リリースしてますし、幸か不幸かコロナ禍のおかげでB'zとしての活動は継続していたので、「EPIC DAY」に比べると久しぶりという気はしませんが、何せツアー告知からリリースまでが長かったので、ようやく音源を聞けるのかという気持ちが強いです。アルバムは初回限定生産版も割と常識的なサイズですが、思ってた以上にフォトブックが分厚いです。オフショットも多数入っているので中々に見ごたえがある。逆に歌詞カードはとてつもなくシンプルです。ライブはDVDで5曲、ぶつ切りで入っています。Blu-rayの画質に慣れているとちょっと荒いかなと思う一方で、MVの見づらいエフェクトの後だと普通のライブ映像はすっきりしていて助かります。カセットテープは聞く手段を別途入手する必要がありそうです。

全曲が全てアルバムで初出だった前作とは異なり、デジタルシングルを2曲、5ERASで先行披露が1曲、過去曲の改作が1曲、さらにタイアップ曲としてフルが流れてしまった曲がある中での全11曲なのでボリュームは少し足りなく感じるかもしれません。ただ、ライブで稲葉さん自身が「自分たちには珍しくゆっくり時間をかけて作ったアルバム」と評した通り、時間をかけて丁寧に作りこんだんだなということがうかがえるアルバムです。ジャケットやタイトルからダークかつハードなアルバムを連想しますし、間違ってはいないのですが不思議と耳なじみの良い曲が揃っています。

01.「SLEEPLESS」
一番ハードなのはこの曲かもしれません。お気に入りの「Kashmir」のリフに支えられて、奥からドラムが入ってくる劇的なイントロがとてもかっこいいです。ライブでも1曲目を当然のように飾っていますが、ライブのオープニングの演出からこの曲へなだれ込む構成に息をのみました(付属のライブ映像ではオープニングはカットされていますが)。この曲のパワフルなドラミングは前作に引き続きブライアン・ティッシーが担当。ブライアンはアルバムでは都合8曲を担当しており、相変わらず重宝されています。ちなみにベースはYT。何と言っても二番前のまくしたてるよなラップがかっこいい一曲です。「Highway X」「Daydream」とこの曲は歌詞にコロナ禍からの脱出というイメージが強く感じられます。名探偵コナンのオープニングになっていましたが、ちょっとタイアップには無理があると感じたくらいハードな楽曲です。

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02.「Hard Rain Love」
頭のブラスセクションが非常にスリリングな一曲。ライブでもアルバムと同様に2曲目を飾りました。スリリングなイントロとは裏腹にアルバムの中でも際立ってポップな一曲です。短めのAメロからブラスと絡みながら陽気なサビが展開。一番では「Love Love Love・・・」のコーラス、二番では煙が立ちのぼるようなトランペットをサビ前の歌詞にあわせて入れてくるのが実にユーモラス。頭の「Oh」で韻を踏んでますが、良いアクセントになってますね。声が出せればライブでこの部分を皆で歌っていたでしょう。その後に「Hard Rain Love 炎上Love」と稲葉節が炸裂。激しい雨の中の恋と燃え上がる恋心の対比だとは思うのですが、この言葉のセンスはさすがです。かっちりまとめられたギターソロの後にくるサビの裏で鳴るバリトン・サックスがとても愉快でお茶目な印象を醸しだしてます。このロカビリーっぽいアレンジは音源ならではですね。松本さんとしては推しの一曲。「NEW LOVE」「DINOSAUR」にはなかった遊び心のあるポップソングです。

03.「COMEBACK -愛しき破片-」
ドラマ主題歌の印象は非常に強いのですが、ドラマは結構編集しています。一番でAメロを2回繰り返したり、一番サビの後のカウントがないのに慣れるのにもう少し時間がかかりそうです。昭和歌謡ベースの楽曲は「雨だれぶるーず」を皮切りに沢山の楽曲を出してきましたが、少し前ならシングルにするようなタイアップ曲にこうした楽曲がくるとは思いませんでした。
「Comeback!」の掛け声とともになるイントロからギターが奏でる昭和テイストに稲葉さんがノリノリで絡んでいきます。「勝手にしやがれ」をオマージュしたとしか思えないBメロの「Ah~Ah~」というフレーズを経て、マイナ―調のサビを切々と歌い上げています。ギターソロ前にはブライアンの轟音のようなドラムソロが炸裂して一気にロックのムードに引き戻します。こんな曲ですが、リズム隊は外人でベースにはロンダ・スミスという女性ベーシストが起用されています(ロンダも4曲担当しています)。付属のライブ映像見ても分かりにくいかもしれませんが、やはりこの曲はライブでのボルテージが一段上がった印象を受けました。しかし、どれだけ聞いてもイントロからそのまま「セクシャルバイオレットNo.1」に持ち込めそうな曲ですよね。

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04.「YES YES YES」
5ERASのDay5で音源に先行して演奏された楽曲です。5ERASの際にはまだ出来立ての楽曲を目玉の未発表曲として演奏しましたが、そこから1年半以上たってようやく完成版が登場しました。ライブでは長めに演奏されたキーボードはなくなり、コーラスをバックにアカペラから始まるのですが、聖歌のような雰囲気に拍車がかかってます。そこからいきなり下世話な調子のサウンドが展開。イントロの清らかさはどこへ行ったのか、SNS時代の炎上などを揶揄するかのような歌詞が強めの言葉で並べ立てられます。サビは5ERASに比べてコーラスが多めに被せられており、特に「そうだ そうだ そうだ」のフレーズがコミカルな雰囲気になって、それまでの歌詞の強さを中和しています。なお、このコーラスには松本さんも参加しており、ライブでは稲葉さんが「皆さんと大合唱したかった」と言っていた曲です。
初回生産限定盤のカセットテープには、5ERASのライブ音源が入っているのですが、聞けないよね、カセットテープ・・・ライブ映像自体はリリース済なのでそちらを見ればよいだけなのですが。また、最後の歌詞のフレーズが5ERASから微妙に変更されています。5ERASは割と古いタイプの曲でしたが、十分なアレンジが加えられて聞きごたえのある曲になりました。

05.「Highway X」
イントロはもろにAC/DCの「Hells Bells」、名作「Back In Black」の1曲目を飾った印象的な楽曲です。ライブではこの曲の始まりと共に照明が変形し「X」字を描きました。その様子は付属のライブ映像でも見て取らるかと思います。「Hells Bells」ではブライアン・ジョンソンのハイトーンが炸裂しますが、流石にメロからは別物で稲葉さんの物憂げな調子のボーカルがすっと入ってきます。洋楽のオマージュ的な楽曲では、歌詞を載せづらそうな印象があるのですが、「Highway X」は比較的するすると言葉が紡がれていきます。この手のマイナーキーの哀愁を帯びたメロディを書かせたら、やはり松本さんは上手い。イントロは「Hells Bells」でしたが、トータルでは北欧系のHR/HMのような佇まいになっています。歌詞はもろにコロナ禍の不安な世相を描いています。「おいでよ暗雲のDays」というサビからも分かるようにいっそ飛び込んでやろじゃないかという逆境根性はいつもの稲葉さん。サビの勢いに乗るかのように二番では稲葉さんの声は伸びやかになり、ブライアンのドラムもシンセドラムと絡み合いながら派手な演奏になっていくので、聞き手のテンションも上がっていきます。レスポールらしい擦ったような中低音のギターソロなのですが、ちょっとロックマンを使ってた頃のような響きがありますね。コーラスをバックに稲葉さんが叫び、最後のサビを終えるとざくざくとしたギターのリフと稲葉さんのファルセットをきっかけに転調して大サビが展開。「光芒」のような大々的な大サビではないですが、晴れ間のない空に光が差し込むような印象です。

06.「マミレナ」
YTと組んでから増えてきた感のあるファンク系の楽曲。この曲ではリズム隊に種子田さんと玉田さんが登場。小回りのきいた感じの楽曲なので、ブライアンの爆音よりも玉田さんの切れを選んだということでしょうか。この曲ではのっけから小野塚さんが大活躍。ウーリッツァーを弾いたかと思えば、シンセサイザーを奏でてと大忙し。ピアノやオルガンメインの小野塚さんなんでシンセサイザーは珍しいですね。
楽曲自体は稲葉さんも得意とする言葉を詰め込むタイプの楽曲で、「ハルカ」と「弱い男」の路線を一緒にしたような楽曲です。前曲の物憂げな雰囲気はどこへやら自由に詰め込まれた言葉が零れてくるようです。ライブでも歌詞がスクリーン表示された曲ですが、個人的には二番の歌詞が印象的ですね。酒で飲みほすピンク色の薬って何でしょう・・・シンセサイザーとバンドが一体化した演奏からギターだけが抜け出して引き絞ったようなソロを披露。茶化したような歌詞とは対照的にはっきりとした物言いのサビが終わると、ここでも松本さんがコーラスに加わって「マミレナ!」を連発。

07.「山手通りに風」
タイトルからも分かりますが、アルバムの中でもやや異色の曲。きらきらとしたイントロにゆったりとした稲葉さんのボーカルで人心地つける一曲です。Bメロで少しテンポが上がりますが、サビでは「痛いくらーいやるせーない」と情けない男の姿を不思議と晴れ晴れと歌います。ライブでは珍しく稲葉さんがアコギを持って演奏された楽曲です。また松本さんはこの曲で珍しクテレキャスターを使用。ライブでも使用していましたが、本人曰く人前でテレキャスターを演奏するのは初めてとのこと。そう聞くとギターソロもシンプルだけど、いつもとは違う少しふわふわした響きがあります。ライブではアウトロが長めに取られて、松本さんと稲葉さんがギターを二人で弾くという非常に印象的なシーンがありました。ちょっと情けない男の歌詞は稲葉さんの得意とするところですが、曲調や「男なんです」という言葉遣いがどこか桑田佳祐さんを彷彿とさせますね。この歌詞は実際に稲葉さんが山手通りで見かけた男女の姿からイメージを膨らませて書いたとのこと。コロナ禍の雰囲気を反映したアルバムの中で一番ほっとできる楽曲です。

08.「リヴ」
最初にタイアップが発表されたのが「リヴ」でした。トランペットとボーカルが寂しげな印象を醸しだしてから、一気にB'zらしいハードロックを展開。この手の楽曲にブラスセクションを付けるのはYTの最も得意とするところです。はっきりとしたメロディに派手なサビというB'zが最も得意とするタイプの楽曲で、普通ならアルバムの前半を彩りそうな曲ですが、後半に持ってきたのはライブでの演奏順が影響しているのでしょうか。二番が終わった後に再びトランペットを交えたパートが入り「I'm reaching for you」と思いっきり伸ばした後に、ギターソロへ入る展開がお見事。この辺のちょっと変わった展開はレコーディングが長くてアレンジを練る時間が長かったゆえかもしれませんね。サビの最後の「Live and let live」のフレーズはそういう言葉があるのですが、「何がなんでも生きる」という歌詞からポール・マッカートニーの「Live and Let Die(007 死ぬのは奴らだ)」を裏返したものじゃないかなという気がします。この曲もライブ映像がついており、「COMEBACK -愛しき破片-」に負けない会場の興奮が見て取れるのではないかと思います。

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09.「Daydream」
松本さんのギターの物憂げな印象のイントロが割と曲の全てを物語っているような一曲。稲葉さんのボーカルも少し掠れた調子で絡んでいくのですが、どことなく歌い方やメロディが稲葉さんのソロっぽく聞こえます。何とも空虚な雰囲気の部屋の様子を淡々と描いたうえで、サビの解放感あるメロディに乗せて「さあもうここから抜けだして行って」と繋げてくる展開も稲葉さんのソロっぽい。モノクロから一気に光があふれるような曲構成は松本さんならではなのですが、サビ終わりのファルセットがまたまた稲葉さんのソロっぽい。いやいやB'zなんだよと目を覚まさせてくれるのが熱量のあるギターソロ。アルバム中の個人的にはこの曲のギターソロがベストに感じますし、ライブでもその熱さに思わず耳を傾けました。ギターソロに限らず松本さんのギターに耳を澄ますとまた違った味わいのある楽曲です。
何でもかんでもコロナに結びつけるのも良くないとは思うのですが、部屋の中でずるずると過ごす日々とそこからの脱却という歌詞はやっぱりコロナ禍の状況を反映しているのかなと考えてしまいます。制作時期もアルバムの最初の方でまさにコロナ禍でステイホームしてた頃だったことを考えると、そうなのかなと。

10.「UNITE」
「B'z presents UNITE #01」のために書き下ろされた曲なのではと思っていたので収録されたのが一番意外な楽曲でした。曲の原型は古くからあったようで、配信でリリースされたバージョンはリズム隊がシェーンとバリーだったことが松本さんにより明かされています。いわゆるデッドストックになっていた曲です。アレンジもこの曲のみYTではなく、寺地さんと大賀さんが手がけてます。松本さんの「Good News」っぽい響きがある曲なので二人のアレンジは納得です。
しかしながら今回は配信バージョンからは大幅に変更したの収録。ライブ同様に河村さんのキーボードとテルミンの壮大なイントロが加わりました。リズム隊もYTとブライアンに変更。配信版は「EPIC DAY」の頃の雰囲気が出てましたが、アルバム版は「NEW LOVE」的な豪快さが出ています。松本さんはギターを録りなおしていますがギターソロ含めてフレーズ自体は大きくは変わらず(心持ち音が大きくて低め)。稲葉さんのボーカルは演奏にあわせて多少弄ってるかもしれませんがほぼ変更なしです。ライブでも本編ラストを飾っていますが、イントロを聞くと配信でUNITE #01を聞いたときの興奮を思い出しますね。てっきり配信と同じバージョンかと思っていたので嬉しいサプライズでした。

11.「You Are My Best」
元々は2012年からあったかなり古い曲であることが、B'z Partyの会報で松本さんにより明かされました。LIVE DINOSAURの客だし曲でもあり、映像作品のエンディング曲として「不思議な力」の仮称でファンからは親しまれてきましたが、タイトルは「不思議」であったことも明かされています。
今回、世界水泳タイアップを受けるにあたって、メロディや展開はそのままにアレンジから歌詞まで大幅に変更して「You Are My Best」として生まれ変わりました。「不思議」はピアノの静かな音色からしっとり歌い上げられる穏やかなバラードでしたが、「You Are My Best」は寺地さんにより「GOLD」を多分に意識したアレンジを施されB'zの王道的なバラードになっています。個人的には「不思議」が歌詞を含めて結構好きだったのですが、このアルバムの最後を飾るには「You Are My Best」の方が相応しいように感じます。「不思議」とメロディは同じですが、頭にサビを持ってきて、イントロ代わりに「不思議」のアウトロのギターソロを持ってきたりとかなり弄られています。最後のサビでフェイクしてさらにファルセットのシャウトに持ち込むあたり全然違う曲になったんだなあと感じます。ライブではアンコール一曲目となり、きらきらしたミラーボールの下で演奏されました。収録されたライブ映像のようにピアノのイントロがあっても良いなという気はしました。

全部で11曲のアルバムですが、非常に濃厚にも関わらずあっという間に聞きおえてしまいます。アルバムの構成がライブのセットリストを多分に反映しており、タイアップ関連のキャッチーな楽曲が満遍なく散りばめられているのも一つの要因かなと思います。あとは時間をかけて制作された分、普段であれば勢いを重視したアレンジや演奏となるであろう楽曲にも凝ったアレンジを施したことで、「NEW LOVE」「DINOSAUR」よりも雰囲気はダークなのにとっつきやすいという不思議な印象にアルバムに仕上がっていると思います。普段であればこのアルバムを聞きこんでライブにとなるのですが、Highway Xツアーはいよいよ今週末で千秋楽。最終の横浜公演のライブビューイングでは、東京で聞いたときとはまた違う感動を得られるんじゃないかなと思います。