前作「Highway X」から3年ぶりとなる新作「FYOP」が明日リリースされます。多くの通販やCDショップではすでに販売を開始しており、自分を含め早速にアルバムを聞いたという人も多いと思います。
全10曲で全部で40分にも満たないアルバムというのはB'zの中で最もコンパクトな内容になってます。9曲のみ収録のデビューアルバムよりもわずかに短いといえばそのコンパクトさが分かるでしょうか。「FRIENDSⅢ」が32分程度ですので曲数はさておき、時間という意味では「FRIENDSⅢ」と実は大差ありません。タイアップ曲の比率が特に多かったというのもその理由だと思います。
本作は数量限定盤と初回限定盤の2種類が存在します。数量限定盤は大きめの箱にアルバムとメタルスマートフォンスピーカーを収納。ラジカセを模したパッケージですがBLACKだとかなり見えにくいです。裏面には「Follow Your Own Passion」の文字が堂々と描かれております。メタルスマートフォンスピーカーはいわば置台ですが、それなりの重量と重厚感があるので意外と実用性は高いかもしれません。一方、初回限定盤は映像付き。こちらはスリーブケースに収めただけのかなりシンプルなパッケージ。細かいところですが、初回限定盤と数量限定盤はCDの盤面の色が異なっていました(数量限定盤は選んだパッケージの色によっても違うようです)。
2種類を両方買う人が多いことを見越してか、あるいは2種類買わせるためか、本作には封入応募特典があります。シリアルナンバー2つで来年開催のライブへの招待か直筆サイン付きのカセットテープの抽選へ応募できます。シリアルナンバー1つの場合にはジャケット画像をあしらったメモリアルプレートへの応募が可能です。来年ライブがあることは喜ばしい反面、50名という狭き門に応募するかどうかは悩ましいところです。カセットテープは記念グッズとしてはなかなかに面白みがあるなと思います。こちらは17日までの応募とのことです。
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パッケージ等についてはここまで。以下はアルバムのざくっとした感想です。
01.FMP
アサヒスーパードライTVCMタイアップソングとして元旦よりCMが放映された楽曲。リリース時点でもたまにTVでCMを見かけることがあり、息の長いCMタイアップとなった。タイトルは「Follow My Passion」の略称であり、曲の中では自分自身の情熱を追うこと以上のことはないと稲葉節で歌い上げている。これをひっくり返して「Follow Your Own Passion」、即ち自分自身の情熱を追えとしたのが本作のアルバムタイトルである。実質のタイトルナンバーと言える。先行配信の際にも触れたとおり、非常にスタイリッシュな楽曲で無駄のないロックナンバーである。タイトルナンバーらしい歌詞の強さも存在感もあるのだが、歴代のタイトルナンバーと比較するとアクは薄めに感じるのは自分だけだろうか(悪い意味ではなく癖がないという意味で)。スタイリッシュさはアルバム全体に共通しており、それを体現しているという意味では確かにタイトルナンバー。
ドラムには予想通りマット・ソーラムが起用されており、ベースには二人のソロ作品や「Highway X」でも演奏した種子田健が起用されている。種子田は本作ではメインベーシストとなっている。4ピースのシンプルな楽曲ということになるが、決して地味には聞こえないのYTによるアレンジの妙。
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02.恐るるなかれ灰は灰に
4月期にTBS系 金曜ドラマ「イグナイト -法の無法者-」の主題歌として書き下ろされた。ドラマタイアップには似つかわしくないヘビーな楽曲だが、楽曲とドラマ映像を組み合わせた映像がYouTubeにアップされるなど、ドラマとまさしくタイアップした楽曲となった。
久々にB'zのレコーディングにカムバックしたシェーン・ガラースのドラムにメタリックなリフが絡みつき、「ELEVEN」もかくやというヘビーなサウンドが炸裂する。出だしは稲葉の演説風の語りでスタート、リフの上でのたうつようなAメロを経てから、意外とキャッチーなBメロが光る。サビは決してキャッチーなものではないが、個人的にはこういう楽曲が久々に聞きたかったという思えるかっこいいサビ。マイクスタンドを握りしめて熱唱する稲葉の姿が今から思い浮かぶ。2番からは川村ケンのキーボードがはみ出してきて、稲葉のボーカルも凄みを増す。ギターソロ前には歓声の中で合唱するパートがあり、今からライブが楽しみ。それを受けてのギターソロはもう何小節か弾き倒してくれてもよかったが、短くまとめているのがこのアルバムらしい。最後のサビ前のエフェクトは少しだけ懐かしさを感じる。
聖書の言葉を用いた強いタイトルにヘビーな演奏も相まって怒っているように感じる楽曲だが、歌詞自体は手遅れになる前に相手と向き合おうというラブソングである。人生一度きりだから後悔しないように素直になれということである。
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03.濁流BOY
完全な新曲でアルバムが初お披露目となるが、この曲にやられるB'zファンはとても多いのではないかと察する。
タイトルの通り、濁流が迫ってくるような不穏なイントロから始まり曲展開は非常にスピーディー。「STARS」でも起用された玉田豊夢の細やかなドラムとアコギのジャカジャカしたリズムに乗せて少し歌謡曲的なメロディを無骨に歌い上げていく。この辺は「俺よカルマを生きよ」を思い出させる。デデデッ!というB'z特有のブレイクを経て、すぐに「飲み込まれちゃいけない」と語りかけるサビが登場するのだが、サビが二段構えになっており、後半のサビがとにかく気持ち良いスピード感である。2番からはメロにもエレキが絡みだし、サビを経ずに力強いギターソロへバトンタッチし、Cメロへ雪崩れ込むという起伏に富んだ展開になっている。落ちサビの前にはファルセットのパートを挟み、最後はバンド全体で加速していく。曲自体は短いが展開をたくさん詰め込んだとても魅力的な楽曲である。
世間の様々な濁流に飲み込まれてはいけないという歌詞は、切り口は違えど「FMP」と同じ趣旨を歌っている。
04.鞭
ABEMAオリジナルドラマ「インフォーマ -闇を生きる獣たち-」主題歌であり、主演の桐谷健太を起用したMVも作成されている。CDシングルではないが、昔で言えばCDシングルとしてリリースされた楽曲に近い立ち位置だろう。
アルバム収録にあたり特に大きな変更点はないが、「濁流BOY」のスピード感のある流れを、じわっと湿ったイントロで落ち着かせ緩急をつけている。本作はYTによるアレンジだが、ベースは徳永暁人が務めるという珍しい布陣になっている。またクレジットからサム・ポマンティがコーラスに加わっていることが新たに判明した。B'zの得意分野を詰め込んだロックナンバーで、全体的にワウの聞いたギターサウンドが印象的。ただし、最終的には「ムチウチナ~」のパートがすべてを攫っていってしまう。スマートなサウンドからどうしてこういうパートを思いつくのか感心するばかりである。ライブで合唱することでより真価を発揮するタイプの楽曲であり、その場に立ち会うのが今から楽しみである。
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05.INTO THE BLUE
シチズン ブランド横断コレクション「UNITE with BLUE」という時計のCMソングに起用されたのだが、生憎自分自身はCMを見かけたことがない。レコードやカセットで言えばA面最後の楽曲であり、パワフルだった先の4曲からは一転タイトル通り青さが伝わってくるような美しい楽曲に仕上がっている。もともと英語のサビのみがCM部分として公開されていたが、それ以外は日本語だったのを英語に書きなおしたことがB'z PARTYのインタビューで明らかになっている。ブランドの紹介動画などでうっすらとBGMとしてかかっていた際には日本語だったので、タイアップ後に曲を差し替えた珍しいケース。
ギターの甘いトーンから始まり、少し大きなアコギの音に乗せて英語の歌詞が紡がれる。少し鼻にかかったような発音のため、Bメロの1行だけ登場する日本語との落差が面白い。サビは海の中に光が差すように大らかなのだが、曲に似合わずドラマチックなギターソロに導かれる最後のサビは「OCEAN」ばりに劇的に聞こえるのが不思議である。
「青の中で今僕は生まれ変わる」という歌詞にふさわしい瑞々しいサウンドに仕上がっている。少しばかりな派手な「TINY DROPS」とも、少し穏やかな「OCEAN」とも取れる楽曲。この曲に華を添えるのは小野塚晃によるピアノである。
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06.FAITH?
B面の始まりを告げるのはギターとオルガンによる高らかな音色である。マイケル・シェンカーへのリスペクトを込めて全編を通してフライングVで演奏された楽曲。それなりにヘビーな楽曲なのだが、合間を縫って聞こえてくるキーボードの音と「Fu Fu Fu」というコーラスのおかげでそこまで重苦しさは感じない。いつものことではあるが、2番からギターが存在感を増していき、我慢できなくなったように曲の合間にも鳴り出すのが気持ちいい。ギターソロに雪崩れ込む前のためのパートで聞こえてくる「Fu Fu Fu」が妙にはまっていて個人的にはツボ。少しインパクトが弱いのを補うためか、落ちサビではちょっと追っかけコーラスが登場。最後に稲葉が目いっぱい声を張り上げると、曲のテンポが上がり、松本もカバーしたことのある「INT THE ARENA」によく似たパートが登場。稲葉のシャウトに導かれてキーボードが前に出てくるのだが、笑顔で演奏する川村ケンの大きなパフォーマンスが目に浮かぶ。
相手のなすことをすべて許容しつつもどこか余裕がない主人公の姿をタイトルの「FAITH?」で「それは本当に信頼なのか?」と刺してくる。
07.片翼の風景
本曲と「イルミネーション」のみアレンジは徳永暁人が務めている。ちょっと堅苦しいタイトルとは裏腹に優しいギターの音に導かれて始まるミドルテンポの楽曲である。「夏っていつまで続くの」という絶妙な出だしで始まるAメロの声が聞いていて非常に気持ちいい。歌詞に出てくる「Rumours」は恐らくはフリートウッド・マックの1977年の大ヒット作だろうか。同作には「Go Your Own Way」というちょっと「Follow Your Own Passion」に似たニュアンスの楽曲も収録されており、勝手な繋がりを想像してしまう(何の関係もないとは思うが)。Bメロにかけて煌びやかなサビが登場しそうな盛り上がりを見せるのだが、サビは少しトーンダウンするのが少し残念。しかし、ストリングスをバックに音階を上げていくメロディは少しずつ景色が開けていくような感覚もあって何度か聞くと癖になってくる。
タイトルからも分かる通り、療養のためUNITE#02を松本が出演辞退したことを受けて書かれた歌詞である。過剰にドラマチックにするようなことはなくさりげない歌詞で「待っている」というメッセージを綴っており、これこそがむしろ「FAITH」と言えるのではなかろうか。曲に似つかわしくないくらい激しいギターソロは歌詞を受けて「帰ってきた」と言っているようにも聞こえる。
08.イルミネーション
NHK連続テレビ小説「おむすび」主題歌として書き下ろされ、昨年の第75回NHK紅白歌合戦 への出演に導いた楽曲。「鞭」同様に先行で配信リリースされたため、シングル曲的な感覚が強い。配信時からアレンジ等は一切変えていないが、ミックスは若干やり直したようであり、配信時に顕著だったこもり気味だったサウンドが改善されクリアなサウンドになっている。山木秀夫が久々にドラムで参加したのにドラムが聞こえづらいという憂き目にあっていたので、それが解消されただけでも収録された甲斐がある。
初回限定盤には第75回NHK紅白歌合戦、ap bank fes '25 at TOKYO DOME ~社会と暮らしと音楽と~出演時の映像に加えてMVの計3回収録されている。
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09.The IIIRD Eye
ドラムの音から怪しげなイントロ展開し、YTが得意とするブラスアレンジが光る。映画「LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族」に書き下ろされた楽曲であり、あまりにルパン3世らしいサウンドであり、映像にも効果的に使われたため、当初は本曲のイントロではなくサントラからの引用だと思われていた。タイアップにあたり珍しくB'z名義ではなく個別でメッセージを出し、松本が長いルパン3世愛を語ったことからも分かる通り、非常に気合の入った作品である。前半に比べると少しミドルテンポが多めの後半において抜群の存在感を放つ楽曲。ジャズとブルース、ロックをごったまぜにしたようなメロからアニメの疾走感にふさわしいキャッチーなサビまで隙が無い楽曲。かと思いきや、2番が終わるとアコギの音色と共にスローテンポに転調し、メランコリックなギターソロを展開。最後のサビに入る前のカウントのパートもルパン3世らしい芝居がかった雰囲気があり、とにかくカッコよいし聞いていて楽しい楽曲。「Highway X」で言えば曲調的にも曲順的にも「リヴ」にあたる楽曲であり、YTアレンジの真髄と言ってよい楽曲。
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10.その先へ
80年代のアメリカのロックバンドが弾きそうな雄大なギターで始まるミドルテンポの楽曲。ちょっと魅惑的なこのギターの音色はストラトによるものだそう。派手なタイプの楽曲ではないが、これからもB'zは音楽活動を続けていくんだよという決意表明に似た歌詞と合わせて聞くと感動的な響きを持ってくる。B'zには珍しく松本から稲葉に対してこういう歌詞にしてほしいという注文があったとのこと。2025年は松本のキャリアでは初めてステージを辞退した年である。体調不良の詳細は明かしておらず、現在は回復しているようだが、当然今後を心配するファンも依然として多いかと思う。そうしたファンに向けて大丈夫だよと稲葉の歌詞と声を借りて挨拶している楽曲と言えるかもしれない。
背景も踏まえると感動的な楽曲ではあるのだが、どうだろうか。「片翼の風景」も本曲もライブで実際に演奏するよりは客だし曲としてライブ会場で鳴っている方がなんだかしっくりきそうな楽曲ではある。またライブが終わった帰り道にライブの余韻と共に聞きたくなるような楽曲である。
以上、全10曲である。
アルバムリリースが発表された当初一番懸念した点はタイアップ曲が多いゆえに華やかではあるが、まとまりのないアルバムになるのではないかということだったが、さすがはB'z、アルバムとして流れがきちんとできている。タイアップ曲が多いゆえにどこかしら聞き覚えのある曲が多く、初聴の喜びを得られる楽曲が少ないのは残念だが、正式な音源で聴けていたのは3曲のみであり、タイアップ曲でも思わぬ展開を見せてわくわくさせてくれる曲が多かったのは嬉しい誤算。
冒頭に述べた通り、曲は短くまとまっており4分半を超える曲がなくほとんどが3分台である。そのせいか、あるいは冒頭の「FMP」のせいかは分からないが、Passionという言葉を掲げている割には全体的にスタイリッシュな印象のアルバムに仕上がっている。もちろん「恐るるなかれ灰は灰に」や「FAITH?」のようにヘビーな楽曲があり、「ELEVEN」などを彷彿とはさせるのだが、良くも悪くも計算されたものであり、同作における強い衝動までは感じない(言い換えればヘビーだけどどこか聞きやすいのである)。
前作「Highway X」は先の見えない中で製作され、エネルギーが内にぐるぐると溜まっていたような印象を受けたが、本作はアルバムのアートワークそのままにラジカセ=音楽から燃え上がる炎=エネルギーを広い地平に向けて自由に放っているように聞こえる。
同じ10曲ということであれば「EPIC DAY」があり、同じくタイアップ曲が多かったアルバムだが、「EPIC DAY」の意図的な古典的なハードロックへの回帰とは全く違ったロックアルバムになっているのが面白い。
細かいことを抜きにしても、タイアップ曲が多くキャッチーな仕上がりとなっているので、「MAGIC」と並んで聞きやすいアルバムに仕上がっていると思うので、ハードすぎるサウンドにはついていきづらいファンも手に取りやすい内容ではなかろうか。
最後に初回限定盤の映像について簡単に触れておこう。MVについてはYouTubeでも公開しているのでおまけ程度だが、先のも触れたように第75回NHK紅白歌合戦、ap bank fes '25 at TOKYO DOME ~社会と暮らしと音楽と~出演時の映像が収録されており、ブックレットに記載されている。
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第75回NHK紅白歌合戦は過去の紹介VTRは省き、橋本環奈による曲紹介から始まり、二人がステージから捌けるまでを司会の声含めて完全収録している。放送時には「LOVE PHANTOM」の冒頭の声がきちんと入らないトラブルがあったが、これは修正されて全編がきちんとしたボリュームで聴くことができるまさに完全版である。TVで放送された音声トラブルバージョンが貴重になったので、逆に録画を削除できない自分のような人も多いかもしれない。ショートバージョンとは言え「LOVE PHANTOM」から「ultra soul」への盛り上がりを見ると2024年末の興奮を昨日のことのように思い出す。
ap bank fes '25 at TOKYO DOME ~社会と暮らしと音楽と~は、櫻井和寿によるMCと呼び込みから始まり、二人が電車ごっこをして登場する微笑ましいシーンもきちんと収録。ちなみに退場するときもマイクとギターを持っているのに電車ごっこで退場している。Bank Bandは小林武史を筆頭にコーラス、管弦楽器隊も含めた11人の大所帯。亀田誠治、河村“カースケ”智康といったなじみのあるメンバー、稲葉のソロに参加した山本拓夫も名を連ねている。「イルミネーション」「Calling」は特にゴージャスなサウンドに生まれ変わっているし、「ultra soul」では櫻井の「いいのかい?」が聞けるという非常に貴重な映像となった。稲葉のコンディションは非常によく、掠れ気味だった第75回NHK紅白歌合戦の「イルミネーション」に比べると溌溂としたボーカルになっているし、「Calling」でも遠慮のないシャウトを響かせている。
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