前作の発売から20年の時を経て「TMGⅡ」が発売されました。稲葉さんのソロアルバムが10年ぶりというのが可愛くなるくらいのスパンですが、25年ぶりだった「FRIENDSⅢ」に比べるとまだまだと言ったところでしょうか。
計画自体は2年前の2022年に松本さんはエリック、ジャックに声掛けしたことから始まっていたとのことなので、コロナ禍を経て色々なやり残していることをやろうという心持ちになっていたことが伺えます。
声掛けは2年前ですが、レコーディング自体は今年になって行われ、松本さんはその他プロジェクトと並行する形で曲作りをしていたとのことです。そのせいかは分かりませんが、松本さん作曲によるセルフカバーが珍しく3曲も収録されています。
ドラムは前作でメインを務めたブライアン・ティッシーから、GUNS ‘N’ ROSES、VELVET REVOLVERの元メンバーであるマット・ソーラムが加入。また、お馴染みのYTも全曲編曲やコーラスで参加しており、日米混合のハードロックバンドといった趣が強く出ています。
前作は曲作りから全員でやったものもあるようですが、エリックがレコーディングできる期間が限られていたこともあり、松本さんが歌メロも含めてほぼ用意したものをレコーディングする形を取ったとのこと。
前作は同時期の「THE CIRCLE」同様に4ピースバンドの音を中心に一部打ち込みを使用してタイトなサウンドを構成、そこにエリックやジャックのアメリカンな節回しが乗っかった結果、ハードロックではあるもののグランジっぽい雰囲気も出た2000年代のロックアルバムとなっていました。
本作は近年のB'zと同じように古典的なハードロックサウンドへの回帰が見られ、80年代の古式奥ゆかしいメロディアスなハードロックを展開しています。打ち込みはあるものの生音が中心に据えられ、ジェフ・バブコのピアノや、ダニエル・ホーの和楽器がアルバム全体のメロディラインを強調しているのではないでしょうか。一方でYTアレンジの特徴であるブラスの使用はなく、パーカッションもほとんど聞こえてきません。
聞きやすさという意味では「TMGⅡ」の方が日本のリスナーには馴染むのではないかなと思いますが、TMG独自のサウンドはやや後退したといってもいいかもしれません。アルバムの感想をざっと書き連ねてみました。
1.CRASH DOWN LOVE
2作目の幕開けは意外にもパワー・ポップ系の楽曲。出だしからずっしりとくる音圧はTMGらしさを感じる。ギターの合間を縫って聞こえるのは「Bad Medicine」のようなピアノのリフ。
ツアーにこそ参加しないものの、本作ではお馴染みのジェフ・バブコが全編にわたってピアノを担当しており、アルバム全体に柔らかさと華やかさを添えている。
そんなに早くないテンポの楽曲でエモーショナルに歌い上げるのはエリックの得意とするところで、「Go West」にも似たAメロを勿体をつけるように歌い上げると、Bメロでは涼し気なコーラスが流れてくる。
「僕に落ちてきた愛、それだけが生きていく意味」と歌い上げるサビは既に動画でもアップされているようにバンド全員で合唱。「OH JAPAN ~OUR TIME IS NOW~」でガチガチに攻めてきた1作目と比較すると日米のハードロックバンドであるという気概を緩めている印象。
2.ETERNAL FLAMES
9月11日に「GUITAR HERO」と共に先行配信された楽曲。
直訳すれば「永遠の炎」という幻想的なタイトルになるが、スピード感のある曲の中に「Tik-Tok Metal Rock」「Animated Harajuku girls」などの個性的な単語が並んでいる。
物語性よりは言葉のハマり具合と勢いを重視した歌詞なので、あまり意味を追求するのは無意味だと思うのだが、街の明かりや照明、盛り上がりを消えない炎に例えているのではないかと思う。
街中の人は全て、街の明かり、賑わいを守る兄弟姉妹というわけである。
シンセとギターが交錯する90年代のB'zサウンドを踏襲したかのようなリフから始まるのだが、この時点で既にカッコいい。短い歌詞が折りたたむように重ねられ、Aメロの終わりからBABYMETALの
コーラスが重なり始めて、サビではエリックとBABYMETALが全く違うメロディを歌っている。エリックが緩急をつけてサビを歌っている横で、BABYMETALは揺蕩うようなメロディを歌い、決めのフレーズで両者が重なる。
華やかな曲展開とは裏腹に松本のギターソロは地を這うような音色から始まる渋めのソロとなっている。曲がスピード感に溢れれば溢れるほど、ギターソロでは緩急をつけるためにギアチェンジするのが松本流。長めの落ちサビを繰り返した後に、BABYMETALの声で終わるのだが、夜が明けて人がすっかり消えてしまった街のような余韻である。
3.THE STORY OF LOVE
2021年にLiSAに提供された楽曲「Another Great Day!!」をTMG流にアレンジし直し、歌詞もエリックとアンドレ・ペシスが書き直している(原曲はLiSAが作詞。アンドレはMR.BIGでもエリックがたびたび作詞を共作している)。
元々はLiSAのイメージにあわせてパンキッシュなメロと伸びやかなサビが印象的な楽曲だったが、TMGらしくバンドでガチガチに固めたアレンジに変化。その中でイントロから琴の音が聞こえてくるのだが、これはダニエル・ホーによるもの。日本人よりも日本の楽器を使いこなしており、彼による鐘、三味線、太鼓の音が良いアクセントとなっている。
LiSAとエリックは終始ユニゾンする形になっており、LiSAが上、エリックが下を歌っている。ところどころでエリックがソロで「baby!」などの声を聞かせてくれるのだが、曲や歌詞のトーンとは裏腹に何故かとても陽気な声。
反骨精神溢れる原曲の歌詞に対して「御伽噺や一目惚れなんか信じてはいないけど、この不思議な感情はとても強力だ・・・これは愛の物語」と割とストレートなラブソングに仕立て直されている。
琴の音から引き渡されたギターソロは一旦溜めのフレーズをツインで弾いてから、比較的長めのソロを披露する構成となっており、松本とYTがユニゾンした後で松本が前に出てくるライブの絵が今から思い浮かぶ。
4.COLOR IN THE WORLD
元々は松本の最新ソロアルバム「Bluesman」に収録された「Arby Garden」というインストゥルメンタルを歌ものに仕立て直している。本曲含めて3曲が過去の楽曲のTMG流の仕立て直しになる。
従来のようなシングルやタイアップによるプロモーションがない中で、アルバムの話題性をあげる目的もあるとは思うが、2024年の松本の提供曲やソロ活動の量を考えると純粋に作曲に割ける時間があまりなかったのではないかと思う。
それはさておき、「Arby Garden」が元々は寺地秀行がアレンジを担当し、The Beatles風のサイケデリックなストリングスとギターが交差するメロウな楽曲だったのだが、メロディはそのままにYTがアレンジを担当。
本作の中では唯一ストリングスを起用しているが、原曲のミステリアスなムードは後退してしまっており、ギターソロではそれが顕著。元々はジョージ・マーティン風のストリングスを活かしたパートだったのが、一方でポール・マッカートニーが作曲しそうな英国風のシックな雰囲気はそのまま残っている。サビの歌詞のフレーズもどこかポール風に聞こえる。
5.JUPITER AND MARS
これは少し異色の楽曲でマイナー調の演歌っぽいメロディのミドルチューン。
サビの歌詞の意味合いがもう一つ掴めていないのだが、遠くへ離れている彼女への恋慕の念を些か大げさに歌った楽曲ではないかと思う。
前作には絶対になかったタイプの日本的な湿っぽさのある楽曲なのだが、情感たっぷりに歌いきるエリックはさすがと言ったところ。
終盤で突然現れる「NA NA NA NA~」のコーラスだけが妙にアメリカンなのも面白い対比。
本曲でもダニエル・ホーによる琴や三味線が活躍し、和風の湿っぽい雰囲気を盛り上げている。また、2番から加わる追っかけコーラスがまたしてもThe Beatles風味。
6.MY LIFE
どう聞いても「BLOWIN’」のイントロで、しかも「BLOWIN’ -ULTRA Treasure Style-」よりもよっぽど原曲らしい雰囲気にあふれたドラミングで始まる。
ジャックのベースが加わり、松本のギターがリフを刻みだすとまるで別の曲に変貌するのが面白いところ。
エリックのリズム感あふれるボーカルが気持ちよいメロから「My life」のコーラスからブレイクなしでサビに移っていく構成が新鮮。
陽気なイントロとは裏腹に、リフの合間に聞こえるカウベルの音とシンセサイザーの音が聞き手を追い立てるような緊迫感を与えている。
ここからは80年代を意識したような王道感のある楽曲が続き、ギターソロも何だか懐かしい雰囲気のフレーズからライブでアレンジしやすそうな短いフレーズを挟んでエリックのハイテンションなボーカルと最後のバンド全員での合唱につなぐ。
7.ENDLESS SKY
イントロ含めて古めかしいシンセサイザーが印象的なロックナンバー。
80年代頃のハードロックを意識しており、シンセサイザーの音色が妙に古臭いのもそうした雰囲気を出すために意図的なものだと思われる、
心なしか歌詞についても、80年代の楽曲にありそうな割とシンプルかつポジティブな内容になっており、難解な言い回しの少ないシンプルなものになっている。
ドラムソロ、ベースソロの非常にスリリングなパートを挟んでツインギターによるソロへ雪崩れ込む展開も非常にスタンダード感がある。
色々な意味で「TMGⅡ」らしさを詰め込んだ楽曲だが、曲順もあってやや目立たないのがもったいない。
8.DARK ISLAND WOMAN
前作で言えば「My Alibi」のような軽快な楽曲の立ち位置で、どことなくB'zっぽさを感じる楽曲でもある。
ちなみにギターソロもなんだかB'zの楽曲からそのまま引っ張ってきたような既視感がある。ちょっともっさりしそうなアルバムの展開にスピーディーな展開でアクセントを聞かせている楽曲でもある。
マット・ソーラムの力強い一発から松本のカッティングになだれ込むまで、少し昔のJ-POPっぽい展開とメロディーライン。
「Dark island woman」と連呼するサビはややもすると単調に聞こえるが、後半に降ってわいてくる「NA NA NA NA~」のコーラスがスリリングな雰囲気を醸し出している。
歌詞はひねくれた表現のラブソングになっており、相手に惚れたことを質の悪い呪いにでもかかったというような形で表現している。
9.FAITHFUL NOW
「JUPITER AND MARS」があるのでアルバム唯一のミドルチューンというわけではないが、そちらに比べると分かりやすいバラード。
「ENDLESS SKY」同様に敢えて80年代風の大きなバラードを作成しているのではないかと思うのだが、80年代風にしてはキーの高さは控えめ。
個人的には大味な感じがするサビの前半よりも囁きかけるような後半のパートの方が耳に残って好き。
せっかくピアノがあるのに、打ち込みの音が前に出過ぎて悪い意味での古臭さが出てしまってるのは残念。
いつもの少しおとなしいギターソロかと思いきや、絞り出すようなギターの音が登場するのは意外性があってぼんやり聴いてた人の耳をハッとさせる。
10.THE GREAT DIVIDE
このアルバムの中では最も「TMGⅠ」の作風に近い楽曲。
系統としては「I wish you were here」「Signs of Life」に近く、頭のカウベルとブギっぽいギターからしてアメリカンな乾いた作風となっている。
荒っぽい楽曲に対してボーカルは割と凝っており、オクターブ下のコーラスがいい意味でドスをきかせていたり、途中の拡声器風のエフェクトをかけた声も曲のワイルドさを引き立てる。
バラードの前曲と端正なメロディが際立つ次の曲に挟まれていることもあり、ワイルドな曲風が目立つ。
11.GUTAR HERO
9月11日に「ETERNAL FLAMES」と共に先行配信された楽曲。
ドカドカとしたドラムの派手な音からメロディアスなギターの音が高らかに響くキャッチーな1曲だが、聞けばわかるように松本がKAT-TUNにデビュー曲として提供した楽曲「Real Face」のリメイクである。
「Real Face」はスガシカオが作詞しているが、歌詞自体はジャックががらりと書き換えて、松本をモチーフとしたものになっている。サビの頭を「ギ」の音であわせているのは偶々なのか、「Real Face」へのオマージュなのか。
「Real Face」にはラップのパートがあり、アイドルらしさがあったものの、そういったパートはそぎ落とし、恐らくは元々松本が作った骨格となるメロディのみになっている。主張の強いバンドによる演奏があるにも関わらず、キャッチーさや親しみ深さを感じるのはやはり先の「Real Face」あってのことだと思う。
歌詞ではギターに出会ってから、チャートで首位を取るようなミュージシャンになるまでをストレートに描いており、サビでは「かの地のギターの英雄にして、バンドのリーダー・・・彼の名は時代を超えて記憶に残るだろう」と中々に仰々しいことを歌っている。20年ぶりに再結成を決めた松本へのバンドからの感謝状がわりの楽曲なのかもしれない。