- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/08/30
- メディア: 単行本
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誰しも、自分が直面した出来事を、自分以上に上手く解決する様というのは余り見たくなるものです。そこに生まれるのは大抵の場合、羨望か嫉妬ですから。しかし、まぁ、そんな場面に出くわすことは余りなくて、精々試験であいつの方が良い点数をとっただとか、その程度のもんです。自分だけがどうにか出来たのに、自分は上手くやれなかった。それなのに、他の人間がやったら上手くいったなんて事に出くわすことはないです。だってそれって、矛盾してますからね。自分しか出来ないのに、他人がやってのけたなんてありえる訳がありません。
このボトルネックは、その矛盾を平行世界という概念でもって解決し、そうした状況を提供する。主人公は何もしない高校生。飛ばされた平行世界に自分はおらず、代わりにいるのは元の世界では死んだはずの姉。姉は実に活発で、主人公が何もしないことで切り抜けた状況を、悉くはるかに良い結末へ持っていってる。これで、ハッピーな方向で落ち着くわけがありません。まぁ、そもそも米澤さんの作品はハッピーに終わったものなんてないから、出る前からハッピーな展開は望んでませんが・・・ちょっとは期待してたりしたのです。
姉が非常に好感を持てるキャラなので、物語の終盤ギリギリまでは、非常に軽快に物語が進んでいく。主人公が時々沈んでるけど、そこは小市民シリーズなんかも同じだし、気にならない。ただ、最後の最後で暗い方向へと突入。考えてみれば、確かに主人公にとっては拷問のような展開で、この結末は必然だったのですが暗いなぁ・・・。
姉に触発されて、心機一転なんて展開はいらないけど、最後に届いたメールによるその後の暗示がいかにも暗い。間違い探しとは言い得て妙だ。
今までの高校生主人公ものの総決算だし、ミステリ色もかなり薄めなので、目新しさはなく、傑作とは呼べないんだろうけど、個人的には非常に好きな作品。クドリャフカやさよなら妖精の次くらいに好き。だって、ほら、最後のメールの文の冷たさはクビシメロマンチストの最後を思い出させるじゃん。
要は痛い青春小説ということです。痛さが好きな人はどうぞ。世界において、自分が最大の間違いと突きつけられる気分は一体どんなもんなんだろうね?と考え、浸れる人もどうぞ。甘いのが好きな人は間違って手に取られないように。