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たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

This House Is Not For Sale

ディス・ハウス・イズ・ノット・フォー・セール -デラックス・エディション(初回限定盤)(DVD付)

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BON JOVI起死回生の一作である。Lost Highwayでカントリー路線に転じてからのBON JOVIは個人的にはもう一つのアルバムが続いていた。ベストの新曲やWe Weren't Born To Followといった具合に単発でよい曲はあったのだけれど、アルバム全体を通すとHave A Nice Day以前のワクワク感が少なかったように思える。極めつけは昨年のBurning Bridgesで、新曲1曲と残りはアウトテイクに手を加えた曲で突如リリースされたこのアルバムは、クオリティ云々というよりもどう受け取っていいか分からないものだった。
正直新作には大きな期待を持てない中、This House Is Not For Saleは久々にBON JOVIらしいキャッチーさとロックに溢れた一作となった。ただ、この素晴らしいアルバムは決して恵まれた環境から生まれたものではなく、むしろジョン・ボン・ジョヴィとしてはかつてない逆境の中からひねり出したもののようだ。未だ続くリッチーの脱退、レーベルとの騒動、前作のセールス不振、ジョンの声の急激な衰えとマイナス要素を挙げればきりがない。傍から見てもボロボロの状況で生まれたアルバムなのである。
オープニングはタイトル曲が飾る。露骨にHave A Nice Dayを意識した曲で、イントロなんかはHave A Nice Dayそのままである。ジョン自身がBON JOVIらしいアンセムのイメージをHave A Nice Dayに置いているのだろう。もっとも、曲が始まればメロはまるで別物。これぞBON JOVIというシンプルなロックナンバーである。サビ終わりの「Coming Home」のコーラスにリッチー不在を感じるが、ギターソロはフィルXが見事にその穴を埋めている。この数年で経験した逆境に対するジョンの強い気持ちが歌詞にもよく表れている。
Living With The Ghostは差し詰め、Just Olderを意識した楽曲だろうか。非常にポップな仕上がりなのだけど、What About Nowのような軽さは感じない。Just Olderと比べるとサビの爆発感に欠けるが、今のジョンではあの頃の高いキーは出ないんだろうなと推察される。ピアノをバックに切々と物語風のパートを差し込むのが懐かしい雰囲気。
This House Is Not For Saleとは対照的に、今のBON JOVIだからできる新しいロックソングを提示して見せたのがKnockout。印象的なコーラスで幕を開け、割と早めのドラムのビートを押さえつけるように静かなメロをジョンが歌う。Boom boom boomの力強い声から導かれるサビには、まさにノックアウトしてやろうという強いパワーを感じる。
アルバム本編では唯一のストレートなバラードであるLabor Of Love。WhitesnakeIs This Loveを彷彿とさせる枯れた印象のバラードなのだけど、ジョンの声にもう少し低さとしゃがれが欲しかったところ。
ド派手なサビから始まるBorn Again Tomorrowあたりには、往年のBON JOVIのイメージを取り戻そうという気合が感じられる。もう若くないんだしYou Give Love A Bad Nameみたいな派手なコーラスを付けた曲なんてガラじゃないという雰囲気が、ある時期からのBON JOVIにはありありと伺えたのですが、作ろうと思えば作れるんだということがよく分かる。もっとも曲調自体はどちらかと言えばThe Circleの都会的で洗練されたものを感じるし、歌詞は「明日生まれ変わるなら同じ昨日を生きるかい?」という今のジョンらしい問いかけに富んだ歌詞になっている。ここではフィルXらしい短くもドライブ感あふれるソロが曲を盛り立てている。この曲を聞くとやっぱりThe Circleに足りなかったのはこのキャッチーさなんだなということを痛感する。
アルバムのハイライトとともいえるポップな楽曲がRoller Coaster。メロはアコギと少し急くようなドラムに乗せて。ローラーコースターでいえばゆっくりと上っているところだろうか。そこからのサビの爆発感が素晴らしい。ジョンの声はもう限界いっぱいまで引き延ばされている(Time flies byあたりがかなりきつそう)が、かえってそれがローラーコースター感を出している。Last Cigaretteあたりが好きであれば間違いなく気に入るであろう、起伏に富んだ楽曲である。
やたらと短い歌詞が目立つNew Year's Day。別に正月のことを指しているわけではなく、新しい日、旅立ちの日を指しているとのこと。どちらかと言えば地味な印象のロックナンバーだが、ジョン自身は新たなアンセム、ライブの1曲目で決まりと言うくらいなので、お気に入りであることが伺える。色々乗り越えてアルバムを作り上げたバンドの晴れやかな気持ちを一番分かりやすく歌詞に込めているからかもしれない。
The Devil's In The Templeでは、レーベルとは仲直りしたものの、今の音楽業界を取り巻く状況が過去とは大きく異なることを教会や悪魔といった暗喩で嘆いている。嘆きという割には、アルバムの中でも随一の骨太なロックナンバーである。してみると嘆きでもあり、怒りの表れでも楽曲なのだろう。歌詞も「俺たちの愛の家になんてことしやがったんだ」という具合で訳すとしっくりくる。ハイライトは終盤のジョンの絞り出すようなシャウト混じりのボーカル。無理をしてでもやはりこういうジョンの声が一番かっこいい。
打って変わって、Scars On This Guitarはジョンが鼻歌混じりに作ってしまいそうな得意なミドルテンポのナンバー。これまでについた傷は誇りだと歌うジョンだけど、あえてギターの傷としたあたりはやはりリッチーの脱退を意識した楽曲なんじゃないかなと勘繰ってしまう。
アカペラのご機嫌な声で始まるGod Bless This Mess。「神様だってこの混乱を祝福してくださる」という歌詞は、他の曲同様に色々あったことを前向きに捉えようとする姿勢がうかがえる。曲調の違いこそあれNew Year's Dayと同じ考えから生まれた楽曲である。メロや構成含めて実はLiving With The Ghostにそっくりの楽曲。
本作唯一のカントリー路線となったReunion。メロディーのテンポの良さと、カントリー特有の爽やかさ、メリハリのあるサビのおかげで退屈さを感じることなく聞くことができる。イントロ含めてWhole Lot Of Leavin'にそっくりの楽曲であるのはご愛嬌。Lost HighwayではWhole Lot Of Leavin'はやや埋もれた印象だが、Reunionはむしろ唯一のカントリー路線が耳を引く結果となっている。
アルバムを通してずっと「I=自分」のことを歌っていたはずなのに、いつの間にか気持ちが「We=我々」になっていたのだというコメントがされるCome On Up To Our House。売り物なんかではないと強く宣言したThis House Is Not For Saleで始まったアルバムが、「僕の家にきてくろいでいってくれ」という楽曲で終わるのが素晴らしい。ムーディーなギターの音に乗せて合唱する最後の構成も微笑ましい。
アルバムとしては12曲で終わりだが、今回も6曲ものボーナストラックが付いている。What About Nowのボーナストラックは冗長な印象だったが、今回はアルバムに入らなかっただけのレベルの高い曲揃いである。
まずは、Labor Of LoveよりもよっぽどBON JOVIらしいピアノバラードであるReal Love。これまた派手なバラードではないが、静かに感情を盛り上げる曲調と切々と訴えかけるような歌詞、転調パートの盛り上がりが個人的には好み。シンプルなアレンジのBed Of Rosesといったところでしょうか。
The Circleに入っていそうなスピード感と都会的なアレンジが印象的なAll Hail The King。この曲では何故かリッチーのコーラス不在をやたろ強く感じる。というよりも、たまに後ろで聞こえてくるコーラスの声の小ささに物足りなさを覚えるのかもしれない。
Burning Bridges用の新曲だったWe Don't Runをミックス違いで収録。これは前作を購入する気になれなかったファンへの心遣いと言ったところだろうか。本作とはお路線がまるで違うが、ドラマチックなイントロ、素晴らしくタイトなドラミング、印象的なサビと言い埋もれさせるには勿体ない一曲なので収録は大正解かと思う。
I Will Drive You HomeだけはWhat About Nowの路線を強く感じる。というか、What About Nowのボーナストラックにしれっと入っていても分からない自信はある。ジョンの押し殺したように低いボーカルと90年代のJ-POPのような澄ましたサビのコーラスが耳を引く。
恐らくは歌詞がアルバムに沿わないということで外されただけのようなGoodnight New York。ニューヨークの街並みを馬鹿みたいに陽気に語る歌詞はちょっとアルバムのイメージには沿わない。ただ曲のクオリティはボーナストラックで終わるには勿体ないくらいにキャッチーだ。まぁでも、BON JOVIのボーナストラックって昔からそうだったよなぁなんてことも思い出させてくれる。
アルバムというかCDの最後はTouch Of Grey。個人的にはかなり好きな楽曲。Bounceが好きなので、Bounceに入ってそうなこの曲の雰囲気が好きなのかもしれないし、単純にメロディーが全体的に好みのツボに入っているというのもある。同じ見方や考えなんてないけど別に構わないじゃないかというちょっとだけ政治色が表れた歌詞。「物事を少しだけ灰色がかって見ているんだ」という歌詞が上手い言い方するなあと思う。
そんなこんなで18曲というWhat About Nowを超えるボリュームながら飽きさせずに聞かせるとても良いアルバムになったと思う。この調子でライブもなんて思うんだけど、アルバムのプロモーションを兼ねて行ったライブではジョンの声はかなり限界のようで、サビではほとんど声が出ない状態のよう。年齢を考えれば当たり前なのだけれど、アルバムが良かっただけにライブにあんまり期待ができないのは残念なところ。