Daily "wow"

たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

ハロウィンと夜の物語

Sound HorizonとしてのリリースはMarchen以来、実に3年ぶりとなりました。今回はハロウィンを題材となってます。アルバムに向けてのプロローグシングルと銘打ったイドヘ至る森へ至るイドとは異なり、この一枚で完結するストーリーシングルです(コンサートへ向けてのリードシングルですね)。
まずは、星の綺麗な夜ですが、宵闇の唄と並ぶ10分超えの大作です。長くはあるものの、1番、転調、間奏、2番とシンプルな構成だった宵闇の唄とは異なり、短いドラマを繋げて一人の男の一生を描く構成。ざっくり書けば以下の通りです。
1.序章にあたるパート。男の断末魔の想いを切々と歌う。最初が英語歌詞というのが珍しいのですが、耳で聞くとなんと言ってるのか分かりにくい。これはご愛嬌としておきましょう。
2.男の祖父が石工をやめて農夫となり、イングランドからアイルランドへ渡るも、孫である男の代まで貧乏暮らし。アイルランド民謡風のメロディーに載せて、訛りを表現するためかと思いますが、コブシの入った荒々しい歌い方が印象的。
3.ジャガイモ飢饉から脱出するため、イチかバチかの賭けとして、男は兵隊として、アメリカ行きの船へと乗るも、船の環境の悪さに乗客はどんどん死んでいく・・・。前のパートとほとんど連続しており、まだまだ張りのある男の声ですが、相当にやけくそ感が漂ってます。
4.新天地アメリカで男が巻き込まれたのは米墨戦争。戦争の中で、男は同胞たるアイルランド人が率いる聖パトリック大隊に背を向け、戦後の報酬を約束したテイラー将軍についた。宗教(聖書)よりも食糧(パン)を選んだとの一説と、冒頭のリフが異様にかっこいいパートです。米墨戦争にて、テイラー将軍が一部のアイルランド人を徴兵したのは史実のようです。飛田さんお馴染みの掛け声もここで登場「諸君!今こそ奴らを地獄に送る時だ!テイラー将軍に続けー!!」
5.カリフォルニアでの金発見に端を発したゴールドラッシュの幕開け。この波に男が乗ったのかどうか不明だが、非常に陽気な調子で、光と闇の童話と8時だョ!全員集合のパロディが登場。最後には「次、行ってみよーう!!」の声も入る懲りっぷり。
6.戦争が終わり、退役した男だったが、アイルランド人への差別が彼を襲った。戦争で負傷した男は酒浸りの毎日を送る。打って変わって、シリアスなムードへと移行する。ラストまでの布石といっていいでしょう。寒々しさを感じるアレンジが、ルクセンダルク紀行のエタルニアパートを思い出せます。
7.妹に仕送りを続ける中で、見つけた恋人。子供が出来、幸福をつかんだと思いきや、男は破落戸に刺されてしまう。死にたくないと嘆くその夜は奇しくもハロウィン。子供たちの陽気な声を背に男はこれまでの人生に思いを馳せる。話の構図は、呪われし宝石のオマージュですね。そこに、「残念ダッタネェ」などの声が加わります(生憎じまんぐではありませんが)。単調なリズムがClaes tranquilloを思い出させます。客観視していた歌詞が気がつけば、男自身の言葉になり、感情がこめられているのにも注目です。
8.ここで、冒頭のメロディが戻ってきます。愛する人(Diana)に死んでも、もう一度会いたいという未練と、ロクでもない人生に対する呪詛を吐きながら男は息絶える。未練たっぷりの男の魂を誘うような民族的なコーラスで幕を閉じます。
ざっくりと、以上の8つのパートです。星の綺麗な夜というタイトルから想像もつかないような大作でした。一人の男の一生を描いた大作といえば、Chroncle 2ndのアルバレス将軍やMoiraのエレフセウスが思い浮かびますが、どこかミュージカル風の喜劇要素をもっていた彼らの一生に比べると、余裕のない濃密な印象を受けます。
「悪戯するならー?」「今でしょー!!」という流行語を堂々と取り入れた掛け声から始まる朝までハロウィン。子供たちが、ハロウィンの夜に街を仮装しながら、更新する様を明るく描いたポップソングです。際立った転調もなく、陽気に賑やかにハロウィンを楽しむ様が描かれてます。Revoがリードボーカルを取っていますが、彼の演じるこの陽気なボーカルが何者なのかは分かっていません。前述の男がハロウィンの行列に加わった姿にも思えますが、それにしては少々陽気すぎるので、個人的にはハロウィンという行事の擬人化された存在かと思っています。後に名前が判明しますが、カボチャ頭のレニーが可愛らしい声でメロを一緒に歌っております。
Trick or Treat?」「もう一軒!」と家から家へ渡り歩く子供たちが、最後にリーダーのジョニーの家に向かう途中で曲は唐突に終わりを告げます。
続けて語られるのは、キャサリン・リヴァモアとその家族のお話。冒頭で体の弱い息子へ謝罪するパートは、彼女が魔女になった理由を思い出してしまいます。謝罪はやがて、生まれた息子への感謝の言葉へと変わり、彼女の息子の一生を追い始めます。
陽気なアメリカン風の曲調に乗せて、彼女が兄の仕送りでジャガイモ飢饉を乗り越え、夫とお腹の中の息子と共にアメリカへ渡った様が描かれます。ここで、彼女が、星の綺麗な夜で男が大事にしてきた妹であることが分かります。息子Leonard(愛称はレニーですね)が生まれ、夫のSean(ショーン)がなきながら喜ぶシーンがありますが、レニーは冒頭にあったように病弱の身。夫婦で出来る限りの愛情を注ぎますが、友達もなくベッドの上での生活がほとんどです。
やがて、ショーンの都合で移り住んだ新しい町で、レニーはジョニーという初めての友達が出来ます。ここのパートは非常に穏やかで、はしゃいでるレニーの声と喜びに泣き叫ぶ夫婦の姿がほほえましく描かれています。
ショーンからキャサリンへのプロポーズのシーンを挟んで、ジョニーもリヴァモアという姓であることや父親がいないことがレニーから語られます。歌詞中では神様の粋な演出扱いですが、「そう思った」のフレーズで分かるように、実はジョニーは、星の綺麗な夜の男の息子だと思われます。何のことはない、ジョニーとレニーは従兄弟同士だったのです。
そして、ジョニーとレニーはハロウィンに向けて、色んなアイデアを練ります。この頃はレニーの調子は大分いいようでご飯もお代わりをして、元気な様子ですが・・・ケイトは「心臓がびっくり」と努めて穏やかな表現を心がけてますが、初めてのハロウィンでレニーは倒れてしまっていました。病弱のレニーの余命が幾許もないことを夫婦は知っていましたが、楽しみにしてたハロウィンへの参加を許可しました。朝までハロウィンの唐突な終わりはレニーが倒れたことによるものでした。
病弱に生まれた運命や、レニーを病弱に生んだ自分たち、レニーを連れまわしたジョニーをケイトは恨まないと決めて、今もレニーはどこかでハロウィンを続けていると告げます。最後はレニーがそこにいるかのように、歯磨きの注意とおやすみの挨拶を告げます。
結果的にレニーは死んでしまいますが、今までのSound Horizonの死に比べると、穏やかなものを感じます。系統としては美しきものや星屑の革紐に近いのですが、あの二曲は後に続く者としての決意があるのに比べて、おやすみレニーはケイトの穏やかさが際立ちます。
レニーが倒れたことで、ハロウィンに加わったであろう男もまたディアナの元へはたどり着けなかったというのが何とも悲しいところです。星の綺麗な夜の冒頭はこの無念さをも表しているのかもしれません。
個人的には、ショーンのまっすぐなキャラがいいですね。サンホラには珍しい父親で、しかも真人間ときてます。ダメな父親か殺されてることが多いサンホラの中では貴重な存在です。
三年ぶりのシングルでしたが、意外と人を選ぶのかなという気もします。良くも悪くもシンプルにいいで劇的差に欠ける話なので、泣き所が近い人じゃないとこのお話には中々入り込めないのかな、と。個人的には、星の綺麗な夜の構成だったり、おやすみレニーのレニーのはしゃぎ声なんかで泣けたりするのですが。
今はただ、このシングルをコンサートで聞くのがとても楽しみになってきてます。