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たまにしか更新しないのに文章長くてすみません。

Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜

Elysion~楽園幻想物語組曲~

Elysion~楽園幻想物語組曲~

RomanとこのアルバムはA DAY AT THE RACEに対するA NIGHT AT THE OPERAである。Romanが個々の曲の独立性とクオリティーを高めたのに対して、このElysion 〜楽園幻想物語組曲〜は全ての曲が一つの方向へと収束するアルバムである。
Romanとの比較になって申し訳ないが、やはりこういう世界こそがSound Horizonらしいと思う。Romanはタイトルが語る通り、「物語」であり、途中の語りは「ナレーション」なのだ。それが第二期Sound Horizonの在り方ならそれはそれで構わない。QUEENが方向転換後も名曲を作ったように、また別の形で名曲を生むだろうし、Romanには美しきもの、星屑の革紐、黄昏の賢者といった新しい名曲が既に入っている。
しかし、Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜における退廃的な曲調、悲劇性の方が僕にはやはり魅力的に思えるのだ。じまんぐ氏の胡散臭い雰囲気を利用した語り、Aramaryによるボーカルは第二期面子に比べると綺麗さで劣るが、悲しみ、声域、語りの緊張感の面で勝っており、一人でいくつもの役をこなしていく。それはまさしく「舞台」。過剰で胡散臭く、スポットライトの照らす先を次々に変えていく。そういう部分に僕は惹かれたんだと思うし、そこが素晴らしいのだと思う。
Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜はエルと仮面の男を主役に据えた悲劇の物語である。二人の話がメインとなるELYSIONサイドと、五人の少女の織り成す五つの悲劇がメインとなるABYSSサイドに分けられている。ABYSSサイドの曲名はArk、Baroque、Yield、Sacrifice、StarDustで、頭文字をとればABYSSを形成する凝った作りだ。ABYSSサイドは最初に必ず仮面の男の呟きが入り、最後に仮面の男が少女たちの前に現れる。
歌詞の内容を順番に簡単に紹介しよう。
Arkは箱舟という名の楽園の中の兄妹の話。妹は兄を過剰に慕っていて、二人でずっと箱舟にいることを願うが、兄は逃げ出そうとする。妹は兄を連れ戻そうとし、最後には殺してしまう。
Baroque。詩の朗読という特殊な形態の曲は一人の少女が懺悔する曲。内気な少女は、自分に話しかけてくれた少女に恋する。女同士の恋は相手に受け入れられるわけがなく、少女は相手を追い詰め階段から突き飛ばして殺してしまう。神にさえ赦させはしないと誓った少女を「ならば、私が赦そう」と言ったのは仮面の男だった。
Yield。それは収穫を待つ村での話。二人の少女と一人の男。三角関係の果てに、一人の少女が刈り取ったのは作物でも果実でもなく首だった。3という数字がもたらす不安定さの悲劇。
Sacrfice。器量良しだが、少し足らない妹。姉は最初それを「死んでしまえ」と呪ったが、高熱を出した妹を前に悔い改める。母が入れ替わりに死に、姉は村で働きだす。貧しいが落ち着いた生活の中、妹は妊娠してしまう。気まずそうな村の男たちと怒れる村の女たち。妹を罵倒する女に姉は飛び掛かるが、妹は最後に「ありがとう」を言い残して、村の者たちに火炙りにされる。姉は怒り狂い、村の人たちが集まった教会に火をつける…。
StarDust。屑でも構わないから、星のように輝きたいと願った少女がいた。彼女は恋人とお揃いの真っ赤な服に身を包み、幸せの絶頂にいた。しかし、彼女は見てしまう。恋人が知らない女性とお揃いの白の服を着て歩くのを。少女は銃を以って、男の服を赤に染めるが、その赤は酸素に触れやがて黒へと変じていく…。
どの曲も曲の後半で悲劇性を増していき、Aramaryの切々とした歌い方から、狂わんばかりの高いボーカル、無感情な語りが上手く活かされており、背筋を凍りつかせる。逆にELYSIONサイドの楽曲は、エルの無知故の幼い声と質問、じまんぐ氏扮する仮面の男の胡散臭さが明るい狂気を思わせて震え上がらせる。
お気に入りの曲は、全てと答えたいところだが、どうしても絞るならSacrificeからの四曲。
Sacrificeは悲劇的な面をもっとも強調した楽曲で、のっけから悲劇の匂いをぷんぷん漂わせる。妹が身ごもってからの緊迫感は見事で、姉の怒りの台詞が凄まじい。「この世は所詮楽園の代用品でしかないのなら、罪深きモノは全て等しく灰に還るがいいっ!」
エルの絵本[笛吹き男のパレード]は怪しげな行進曲。ハーメルンの笛吹きを思わせる妖しさと怖さを併せ持った楽曲。イントロの笛の音に重なるドラムから高揚してくる。途中の笛のソロも圧巻。何より、じまんぐ氏の台詞が素晴らしい。「来る者は拒まないが、去るものは決して赦さない…楽園パレードへようこそ!」まるでミュージカル。
StarDustはメロディーセンスが素晴らしく、Sound Horizon全楽曲中でもベストの出来。始めのサビのアカペラから一気に引き込まれる。少女のスネた感じと昂ぶった感情を表すようにスピーディーなAメロ、Bメロも聞き手を捕らえて離さない。アルバムの一曲としてでなくとも、素晴らしい楽曲。
エルの楽園[→ side:A →]は物語の終焉でエルと楽園たるELYSIONの崩壊を示す楽曲。楽園で涙する不思議さを自問自答するエルの奇妙な明るさ。「本当はね、知ってるの」という言葉とともに剥ぎ取られた楽園の仮初めの姿。何と言っても曲名とともにフラッシュバックされるABYSSサイドの楽曲がかっこいい。サビメロをオルゴール音で流すだけなんだけど、凄くかっこいいのです。その後の隠しトラックにも「やられたっ!」って感じ。
歌詞の世界について。Sound Horizonの魅力は散らばった楽曲の物語を、いかにして一つの枠にはめ込むかということ。Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜にも多数の解釈があるみたいですが、まずは何も見ずに僕なりに考えてみました。後でまるで解釈が変わるかもしれません。
仮面の男とエルは父娘なのは自明のことでしょう(エルの楽園[→ side:E →])。ある身分違いの少年がエルの肖像画にに恋してエルと駆け落ちしてしまう(エルの肖像)。仮面の男は激怒して、娘を捜す。その際、少年の生死は問わなかった。彼が例え、自分の家の使用人だとしても。娘と少年の結婚式にかろうじて割り込むが、少年は死に、娘は心と体に傷を負う(エルの天秤)。エルは子供を産めない体になってしまい、また、精神に支障をきたし、自分が楽園にいると思い込んでしまう。しかし、そんな頭でも自分にエリスという娘が産まれると信じており、出産日を知ってる(というか設定してしまっている)。これが、エルの楽園[→ side:A →]で言われた「明日は世界で一番可愛い女の子の誕生日」だと思われる。
その出産日が来てもエリスが産まれないとエルの精神が崩壊するに違いないと仮面の男は考える。ならば、自らエリスを連れてくるしかないと考えた。しかし、「明日」という言葉からも分かる通り、期日は近い。まともに探すことは愚か、犯罪でも難しい。
ここで出てくるのがABYSSだ。エルの絵本[魔女とラフレンツェ]には、純潔を散らしたことで、開かれた世界があることを示している。こちら(=ELYSION)に対するABYSSなる世界があるのではないかと僕は思うのです。無論、この曲には、駆け落ちという形で純潔を散らしたエルとラフレンツェを重ねてもいるのだろうけど。この曲を物語に直接的に関わってると捉えるには、最後の「物語はページの外へ」という言葉がおかしすぎるのでやめときます。
時間の流れ方の違うABYSSで、仮面の男はエリス候補を探す。対象は一人になってしまい、居場所と愛情を失った少女。エルがエリスと認識してくれる少女を求め、仮面の男はまるでパレードのように様々な少女を従えていく。エルの絵本[笛吹き男とパレード]はそれを揶揄したもの。この曲の男の肩に乗ってる少女は無論エルと重ねるべきものだろう。たった一人のエルを求めてパレードはどこまでも続くはずだった。
しかし、エリスの誕生日となる日、一人のエリス候補を連れ、家の前までたどり着くが、候補に刺される。死ぬ間際の体で扉を開けて、「ただいま」まで言って仮面の男は力つきる(Track 44)。エルは「おかえりなさい」を言うが、死体になっていることに気づかず、自分が楽園にいること信じ続ける。しかし、楽園にいながら頬に涙が伝う矛盾に気づいた時、ELYSIONは決して楽園などではないと知っていたことを思い出す。その瞬間、エルが見ていた楽園という幻想は消え去り、荒涼たる大地が姿を現す。エルは真実の中で死んでいく。
そんな話が一番整合性が取れてる気がします。ELYSIONとABYSSが別世界という設定に無理がある気もします。実は、ELYSIONもABYSSも同じ世界で楽園を信じた少女から見た世界がELYSIONで、奈落へ突き落とされた者から見た世界がABYSSなのかもしれません。そうするとArkの言葉遣いがいやに近未来的なのが引っかかりますが。
無論、エル=エリスなら終わりです。まぁその場合はエリスをエルの転生体というSFチックな発想を持ち出せばいいのですが。


うん、まぁ、そんなわけでElysion 〜楽園幻想物語組曲〜でした。僕的に今年B'z、WIG WAMに並ぶヒット。こんな歌詞を読んで、繰り返し聞いてるのはMONSTER以外ではこれが今年初めてかも。QUEENが好きなことからも分かると思いますけど、直球HRに憧れる反面、やたら芝居がかった、それでいてしっかりしたメロディーのある音楽に弱いのですよ、僕は。じまんぐ氏とAramaryの声にも惚れた。なのに、Aramaryがもういないのが悲しい限り。いや、第二期面子も好きですけどね。誰かと歌詞解釈について三時間くらい検討したい気分です。
あと、聞き終わるとジャケットが怖くて仕方がない。これ裏側には、同じ構図でAbyssサイドの絵が描いてあるんですよ。そこの少女たちの微笑が半端なく怖い。
怖いといえばエルの楽園のPV。エルがホラー。陳腐なPV故にホラー。